第20章 響箭の軍配 参
彼女の眸が変わるのを近くで見たのは今日だけで既に二度目だが、光忠はやはり、その光彩の変化がとても美しいと無意識下で思う。本来ならば、異質と言える様はしかし、何故か凪のものだと認識すると、受け取る感覚が変わるように思えた。
遠方をさながら望遠鏡でも覗くかのような感覚で見つめて居た凪は、光忠が示した方角を真っ直ぐに辿って行く。奥へ奥へと進んで行く度、どくりどくりと鼓動が速まって行った。体温が上がり、気を抜けば途端に途切れてしまいそうな目の前の光景を必死に繋ぎ止めていた凪は、やがて映り込んだ一団に息を呑む。
「居た…!」
「…!」
凪が言葉を発した瞬間、光忠は我に返った様子で改めて彼女を見やった。そうして苦しげに眉根を寄せると懐からそっと手拭いを取り出す。眉間を顰め、集中しているらしい凪の額には、じんわりと汗が滲んでいた。おそらく力を使っている所為で体力を消耗しているのだろう。一瞬躊躇った様子で動きを止めた光忠だが、そっと彼女の視界を遮らないように手拭いで汗を拭った。
「ありがとうございます」
「……いや。どうだ、奴等は動きそうか?」
「何かの準備をしてるみたいです。結構慌ててる…あれ、あの黒い箱って…」
南蛮筒部隊の様子を【見】ながら、凪が光忠へ礼を紡ぐ。短い問いかけに悩みつつ答えた彼女は、ふと視界に映り込んだ黒い箱の存在に気付いた。平原の待機場所と思わしきそこで、南蛮筒部隊の者達は慌てた様子で黒い箱から何かを取り出し、それぞれ持っていた銃へ装弾している。黒い箱の中身は弾薬だったらしい。何故光秀がそんなものを用意させていたのか、まったく見当の付かない凪が首を捻り、しばらく様子を窺った。
「…あれ、何か…っ、」
不意に凪が小さく呟く。中途半端なところで言葉を切った彼女がふらりと体勢を崩し、後方へ倒れそうになったのを認めた光忠がすぐさま背後に回り込み、彼女の身体を背中から受け止めた。触れた瞬間、着物越しでも分かる火照った身体へ目を見開き、光忠が声をかける。
「……おい、無事か?」
「だ、大丈夫です…ちょっと目眩というか…多分【目】の反動なので…」
「これがお前に掛かる負担、という事か。確かに誰かが傍に居ないと扱うのは危険だな」