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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



「申し上げます。光秀様よりの伝令です。【響箭(きょうせん)の軍配をお待ちあれ】との事」
「……いいだろう。万事抜かりなく進めろ、とでも伝えておけ」
「はっ!失礼致します」

光秀からたった一言の伝令を受け取った信長は、その意味をしばし考えたのち、小さく口角を持ち上げて応えた。信長からの返答を受け取った兵は、再び一礼した後ですぐさま引き返して行く。周囲を固めていた兵達は、一瞬彼らが何の意図でやり取りをしていたのか考えが至らず、怪訝な様子で首を捻った。
一人意味を理解した信長は、伝令が走って来た事でやがて戦況が大きく動くと踏み、視線を戦場内へぐるりと走らせる。その中で奮戦している一人の武将の姿を捉え、彼はそのまま馬を走らせるのだった。

敵将────木沼政忠(きぬままさただ)は、自らの後方で馬上に居る主君を守るべく、奮戦していた。すっかり刀の腕など衰えている主君を守るのは馬廻り衆と自らの槍であり、織田軍の兵達を蹴散らしながら、ひたすらに前へ前へと進んでいる。自軍の士気はぐっと落ちていた。それは、先日まで好調であった筈の戦況が、まんじりとも動かなくなってしまったからに他ならない。織田軍の兵達は相変わらずの士気の高さであり、勢いのままに押し切られでもすれば、すぐにでも総大将の首など獲られてしまいそうだ。

そこまでの事態を目にすれば────否、清秀が策を殿へ献上した最初の時から、このような展開は予想出来ていたのかもしれない。この小国の兵達、自らは当然、総大将たる大名もすべて、清秀の盤上でただ踊らされていただけだったのだ。

しかし、今ここで気付いたところで後の祭り。反旗を翻したこの国を、魔王は決して許さないだろう。政忠は焦燥した。せめて一般兵達、足軽として各地から集められた農民達や部下達だけは何とか救えないものか。この故郷を蹂躙される事なく、せめて無関係である者達には被害が出ぬように出来ないものか。
迫り来る織田軍の敵兵を槍の柄で振り払ったと同時、周囲が突然どよめいた。果たして何事かと視線を向けた瞬間、武将は鋭く息を呑む。背後に控えた大名が、ひいっと総大将らしからぬ情けない悲鳴を上げた。

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