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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



肩を竦めて笑った清秀を見つめ、凪の双眸が見開かれた。その表情を目にした刹那、清秀は何処か嬉しそうに口元を綻ばせる。企みや計算のない、純粋な笑みに凪は言葉を一瞬失った。

「そっちの顔の方が、怒った顔よりずっと可愛いね」

それだけを口にすると、清秀はするりと凪の頬を撫で、落ちた傘を手にしたまま身を翻す。光秀達にはさして声をかける事もなく、またかけられる事もないままで廃寺の奥へ姿を消した男の様子をしばらく見つめていた凪は、ふと我に返ったように小瓶を大切そうに袂へ仕舞った。
その瞬間、背後でぱしゃりと水が跳ねる音が響き、振り向きざまに手首を強く掴まれる。

「……!!」

小さく息を呑んだ凪の視界には、珍しく微かな苛立ちを滲ませた光秀が映り込んだ。基本的に飄々としていて、あまり自らの負の感情を表に出さない光秀が、凪でも気付いてしまえる程に苛立ちを過ぎらせているという事は、彼の中で相当の感情が渦巻いている証拠のようにも思える。視界の端には馬から降り、光秀と自らの馬の手綱を握っている光忠が見えた。
彼もまた至極珍しい事に、その整った面を曇らせており、清秀が残した爪痕が相当のものであると今更ながらに思い知る。

「光秀さん…、あの」

凪が小さく声をかけたところで、光秀は何も言わず掴んだ手首を引っ張った。そうして大きな大樹の下、広がる緑の葉が雨除けとなるだろうその場所で、手首を拘束する彼の手はするりと離れて行く。木の幹を背にし、凪が顔を上げたと同時、光秀が静かに告げた。

「何故一人で向かった」

分かりきった答えを、敢えて口にするのは感情の揺らぎが激しいからだろうか。凪を責めた調子ではないが、低く冷たい声色が胸に刺さる。

「……そんなの、言わなくても分かるじゃないですか」

かすれた声で答えを紡ぐ凪を見つめ、ほとんど予想出来た言葉がやはり返された事に、光秀は内心で歯噛みする程の思いに駆られた。解毒薬を交換条件に出された時点で、余程の事がない限り、凪がそれを呑むなど想像に易い。
果たして、この戦場に赴いてから、凪は、或いは自分は幾つの衝動を堪えただろう。

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