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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



(聞きたくない)

半ば本能のようなものだ。衿を掴んでいた手を離し、そのままそれを後頭部へとあてがった清秀が、顔を上げさせた凪の唇を呼吸ごと奪う。ん、と小さく零れた微かな音すら呑み込んで、深く舌を絡ませた。

無論、男の行動は光秀の目にも鮮明に映り込む。呼吸も音も、反論すら全てを呑み込んでしまうかのような深い男の口付けを前にして、鐙(あぶみ)を踏む足先に力を込めた瞬間、進路を遮るかの如く光秀の前へ進み出た光忠が、珍しく必死な形相で主君を止めた。

「光秀様…!どうかここは……凪の、為に…」

苦しげに小さくなる語尾が光秀に届けられ、彼は手綱を握っていない方の拳を硬く握り締める。小さく震えたそこから、細く赤い筋がゆっくりと伝って行く様を目の当たりにし、光忠がぐっと唇を噛み締めた。主君の怒りとやりきれなさが、空気を通して伝わって来る。
しかし、光秀はその目を凪から逸らす事はしなかった。彼女が何の為に、ああしているのか。不用意に触れられただけで怒りを滲ませ、平手をかますような彼女が、何故清秀を受け入れているのか。その覚悟を踏みにじる事は、光秀にはどうしても、例え己の心を殺す事になったとしても出来なかった。

蹂躙のような口付けの後、緩慢に離れていった男が間近にある凪を見つめて、ほんの一瞬悲しげに眼を揺らす。濡れた唇へ咄嗟に袖口をあてがい、ぐい、と強く拭った凪が男を睨んだ。強く真っ直ぐな視線を受け、清秀はかすれた声で囁く。

「……せめて、私に対して少しは動揺する姿を見たかったな」

そう告げた男は袂からもう一本の小瓶を取り出し、それを彼女へそっと差し出した。抱かれる、という条件など到底満たしていないにも関わらず解毒薬を渡して来た事へ、思わず怪訝な表情を浮かべた凪が清秀を見上げる。

「…どうして?」
「君を抱くなら、無粋な見物人が居るところではなく、二人きりの褥の上が良い。それに、こんな雨の中で君を裸にするなんて、そんな可哀想な事は出来ないよ」
「……もしかして、最初から…」

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