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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



「……ああ、挿してくれていたんだ」

彼の言葉が指していたのは、凪の髪に飾った錦木の簪の事だ。漆黒の髪に映える真紅はいっそ毒々しいが、艶めきも同時に感じられる。彼女にそれを贈った時も思ったが、凪には赤がよく似合う。

「嬉しいな」

凪に対して発する言葉はどれも本心だった。それが自分という人間にとってどれだけ稀有な事であるのか、きっと彼女は分かってくれないだろう。しかし、理解されずとも良い。自分だけが分かっていれば良いのだから。

「今日は約束通り、新しい簪を持って来たんだ。君にとても似合うと思う。受け取ってくれるかい?」
「嫌です」

柔らかい声色の問いかけに対してにべもなく断った凪は、一度疲れたのか腕の中での抵抗を止めた。きっぱりした返答へ双眸を幾度か瞬かせた清秀がくすくすと可笑しそうに笑いを零す。ひとしきり笑った後で顔を上げられるように腕の力をそっと抜けば、凪が憮然とした表情で男を睨んでいた。

「なら、交換条件というのはどう?」
「……なんですか。不公平な条件なら絶対呑みませんよ」
「そうでもないよ。君が今挿している錦木の簪の代わりに、新しい夾竹桃(きょうちくとう)の簪を貰って欲しい。もし貰ってくれたら…解毒薬を、半分だけあげる」
「半分って、どういう…」
「毒にかかった者の内、半数だけが助かる、という事だよ」

耳にした瞬間、凪は片手で髪に挿した簪を勢い良く引き抜く。そのまま男の胸へ押し付けるようにして返せば、片手をそのままずいと差し出した。さっさと渡せ、と暗に告げている彼女の思い切りの良さに笑いを溢し、簪を受け取ってそれを仕舞った後、差し出した手に一度傘の柄を持たせた清秀が袂を漁る。慌てて傘を受け取った彼女を視界の端に捉えつつ、そうして取り出した夾竹桃の簪をそっと髪に挿した。

「解毒薬、渡してください」

不要な言葉は要らないとばかりに、凪がそれだけを口にする。しゃら、と簪についた玉飾りの音が響き、涼しげな音へ満足げに双眸を眇めた男は、取り出した小瓶をひとつ、凪へ渡した。傘を片手にしつつ、受け取った小瓶を大切そうに自らの袂に仕舞った凪は残りの半分を要求するかの如く、男を見る。

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