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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



憤慨の色を浮かべた彼女が奥歯を噛み締める。そうして滲む怒りを漆黒の双眼に宿した彼女が片手を思い切り振り上げた。迷いなく振り抜かれる華奢な平手が空を切る。ひゅっと微かな音が響く程の勢いづいた手首を、難なく受け止めた清秀が傘を手にしたままでぐいと己の方へ引き寄せる。

「やっ…!離して…っ!!」
「絶望と怒りに染まる君も愛らしいよ。でも、折角なら怒りを越えた憎悪が見たかったな。……もしかして君は、誰かを心底憎んだ事がないのかい?」

それこそ、命を奪ってやりたいと思った程に。
鼓膜を揺さぶる低い音へ、弾かれた様子で顔を上げた。純粋な疑問を抱いているらしい清秀の眸には興味が滲んでいる。掴まれた腕を引き剥がそうと必死に抵抗しても、男の手は容易に離れない。抵抗しながら、凪は一瞬だけ怖くなった。
自分に会う為だけに戦を引き起こし、感情を昂ぶらせる為に酷い事をして、今度は。

(私の憎悪を見る為に、何をするつもりなの…!)

もしそれが、自分の大事な人達に及ぶ事だったなら。そこまで考えて背筋が冷えた。最初に思い浮かんだ光秀の姿に、凪は折れそうになる心を必死に奮い立たせて間近に迫った男を睨み付ける。

「誰かに対して、そんな風に思った事は一度もない!貴方がどんな事をして来ても、乗せられたりなんかしない…!」
「……君の大事な人に危害を加えても?例えばそう、光秀殿とか」
「光秀さんは強い人です。だから、貴方の小狡い手になんか引っかかりませんよ」

光秀の名を口にしたと同時、凪の眸が揺れたのを見て取った清秀は、それを囁いたのが自分自身であるというのに、途端に興味が失せていく感覚に陥り、掴んでいた手をそのまま引き寄せると抵抗すらも飲み込んで、彼女の身体を抱き締めた。

「…離してください…っ!!」
「……取り敢えず憎悪はもういい。君の怒った顔も堪能させてもらった事だし、ね」

片手で傘を持っている為、凪への拘束は腕一本だけだ。その筈なのに、抱き締められた身体はびくともせず、凪は何とか腕から抜け出そうと必死にもがく。
以前にも言った事だったが、そもそもこの男とまともな話が出来る筈もなかったのだ。早く話を切り上げて、解毒薬を貰わなければと考えた凪を他所に、ふと清秀は嬉しそうに目を眇める。

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