• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



「無事でいろ。傷など作ろうものならば、やはりお前を数日こき使ってやる」
「……分かりました。あの…、」

ありがとうございます、と礼を紡ごうとした刹那、どくりと凪の鼓動が大きく跳ねた。【目】の予兆であると察した彼女が一度バランスを崩して目の前でふらついたのを見やり、光忠が咄嗟にその背を支える。ゆっくりと床几へ腰掛けさせ、凪を正面から見た彼は、彼女の黒々した眼がゆっくりと深い青色へ変わっていくのを間近で目にした。

(これは、天眼通(てんげんつう)の…!)

漆黒から海の如き深い青色へ変わる様は、確かに普通に考えればとても異様な光景である筈だが、何故かその一瞬、光忠にはそうは思えなかったのだ。正面を向いている事もあり、凪の視線は自らを真っ直ぐに見ているような錯覚を引き起こさせるが、おそらくその実、そうではないのだろう。
一歩凪へ距離を詰め、事情を知る家康以外の者が入って来ては困ると考え、光忠は彼女を自らの身体で隠すような位置取りをし、肩へ腕を回したまま、体勢をそっと支えた。

塗り替えられていく視界にびくりと震えはしたが、そこに居るのが光忠であり、【目】の事情を知っていると思い至って凪は自然と身体の力を抜く。無言のままに傍へ寄り添ってくれる光忠の眼差しが静かに自分を見つめている事に気付きながら、凪は映り込んだ光景へ意識を向けた。

────…見覚えのある旗指し物(はたさしもの)を掲げた数十人の兵士達が隊列を組みながら平原を進んでいる。彼等はその手に見た事もない銃を持ち、何処かへ向かっていた。平原に生えた背の高い草の雨露が歩みを進める度に滑り落ちて行く。雨は上がっていた。分厚い暗雲がゆっくりと晴れ、雲間から射す光を受け、それが抱え持った銃口を光らせる…─────

緩慢な瞬きの後、ゆっくりと深い青色から黒へ色を戻して行く凪を見つめ、光忠は微かに安堵の息を漏らす。初めて彼が目にした時のように怯えた姿ではない事に胸を撫で下ろした、とまでは伝えはしないが。

「あれって…日本製のものじゃない、よね」

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp