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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



くすくすと鈴を転がすような笑い声が耳に届き、光忠は不服を露わに視線を投げた。

「…光忠さんって、光秀さんと一緒で不器用なんですね」

先程まで幾分沈んでいた心地が、一気に和らいだ気がして、小さく笑みを溢す。綻んだ口元は先日の宴の折、家康に何かの本を貰った時程の笑みとはほど遠いものであったが、初めて自らへ向けられた凪のそれを目にした光忠は、無意識の内に息を呑んだ。
溢された笑みから視線を逸らす事が出来ず、ほんのり目元へ朱を走らせた光忠が、思い切り顔を背けて苛立たしげな面持ちを浮かべる。

「…お前に不器用などと言われるとは、心外だな」
「光秀さんとお揃いですよ。従兄弟って案外似るんですね?」
「なるほど、随分な調子の乗りようだ。こんな事ならば、いっそあのまま落ち込ませていた方が静かだったやもしれんな」
「別に落ち込んでませーん」

軽口を叩き合う二人を眺め、兵達は果たして凪と光秀と光忠、この三人は一体どんな関係なのだろうと首を捻ったのだった。




一方、夜番の兵達により捕らえられた一人の男は、地へうつ伏せ状態のまま抑え付けられ、両腕を縄により堅く縛られていた。
ざあざあと相変わらず雨脚が強い雨の中、足軽の格好のままで後方の陣内へ潜入を試みていた男はしかし、途中で見張りの兵へその姿を捉えられてしまい、現在に至る。

一帯は未だ動ける兵達が捜索を続けている中、九兵衛と共に男の元へ進み出た光秀は白い袴が泥で汚れる事もいとわずに膝を折って身を屈めた。片手を伸ばし、男の顎を無造作に掴み上げた光秀は、泥で汚れたその顔を鋭く見やる。

「お前は、清秀殿の手の者か」

それはもはや問いかけですらない。感情の無い低い音は雨音の中でも確かに鼓膜へ届けられた。確信的な光秀の問いへ男は無言を貫く。それどころか男は口端が切れ、血が滲んでいるそれに笑みを刻むだけだ。口を割る気はない、その表情を目にした光秀が察したと同時、眇めた視線の温度が下がる。
口を割らないという事もまた、それは即ち肯定と同義なのだ。

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