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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



揶揄の色を含め、長い睫毛をふわりと閉ざした光忠は口角を微かに持ち上げる。それを耳にした瞬間、些か弾かれた様子で顔を上げた凪は光忠の整い過ぎた横顔を見上げ、伏せられた色素の薄い睫毛と、薄い唇が弧を描く様を認めては、その人を食ったような表情が不意に光秀と被る事に気付き、黒々した目を僅かに揺らした。

「………別に元から可愛げなんて、ないです」

いつもように眉根を顰めて文句を言うかと思えば、返って来たのは苦々しい小さな声である。ふい、と顔ごと視線を逸らされ、光忠は微かに目を見開いた。菫色のそれが仄かな驚きを孕んでいる事にすら気付けず、凪は唇を引き結ぶ。
戦場で怯えまいと必死に自らを奮い立たせていた女と同じ姿には到底見えず、一瞬言葉を失った光忠はしかし、呆れた眼差しで彼女を横目で見やった。

「…言っただろう。お前程度の女ならばそこらじゅうに転がっている、と。だが、私もあれからお前を見ていて認識を改めた部分はある」

最初こそ少なからず気分を沈めていた凪だったが、元々遠慮という言葉を知らないような男の物言いに、次第にひくりと眉間の皺が刻まれ始める。言葉の雰囲気で、光忠が言わんとしている事を何となく察していたのは、年の功を重ねた金瘡医だけだった。

「護衛は護衛対象に嫌味を言うんじゃなくて、護衛対象を守るのが本来の仕事ですよ、光忠さん」
「ちょこまかと動き回る落ち着きのない護衛対象には、嫌味の一つでも言いたくなるものだ。………私は初めて会った時、あの御方がお前を【特別お傍に召したくなる理由が分からない】と言ったが、今はそうではない」

光忠の静かで抑揚のない、落ち着いた言葉が鼓膜を揺らす。
顔を持ち上げた凪と光忠の視線が交じり合う。一度緩慢な瞬きをした後、光忠は口元の笑みを消し去った。

「…お前が、お前だからこそあの御方はお傍へ召しておられるのだろう。どうせその小さき頭で無駄に思考を回しても、碌な事など浮かぶまい。いつもの如く、呑気にしていろ。…お前が沈むと、士気も沈む」

それはとてつもなく遠回しな、光忠なりの励ましや気遣いである。つい揶揄や皮肉が先立ってしまうのが玉に瑕(きず)ではあるが、それでも凪は双眸を瞬かせた後、何処か嬉しそうに面持ちを綻ばせた。

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