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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



(光秀さんの、力になる)

凪の目が仄かな可能性を見出して、燻っていた迷いを払った。彼女が僅かに憂いや惑いを帯びていた表情を覗かせていた事に気付いていた金瘡医は、その姿を見て微かに目を瞠る。
人は何かの決断をした時に、目が輝きが変わるという。それは数多の人間を見て来た僧の頃に、辿り着いた経験談だ。惑って寺を訪れた者はしかし、己の中に何かの答えを見出すと、その目の輝きを変えて振り返る事なく立ち去って行く。
きっと凪も、彼女の中で何か大きな決断を下したのだろうと内心で察した金瘡医の男は、天幕の外で一連のやり取りを割と最初から耳を静かに傾けている一人の男の存在に、そっと口元を柔らかく綻ばせたのだった。

「入るぞ」

ふと、凪の鼓膜を耳馴染みのあるしっとりと低い声が震わせる。天幕の外からやって来たのは、雨に濡れた姿のままの光秀だった。

「光秀さん…!?」
「これは光秀様、もしや凪様に御用で?」
「ああ、少しこの娘をかりて行く」

振り返った凪が光秀の姿へ驚いた様子で声を上げる。金瘡医はさして驚いていない様のまま、やはり朗らかに笑って見せると首をゆるりと傾げて見せた。
男に対して短い相槌を打った後、傍に立つ凪の手首を掴み、光秀は静かに身を翻す。

「どうぞどうぞ。何なら少し休ませて差し上げてくださいませ」

ほとんど問いかけではなく、一方的な発言に対しても気を悪くした素振りを見せず、金瘡医が告げた。

「え、あの…!?」

戸惑う凪の手首を引き、彼女の意思を確認しないままで天幕を後にして行った光秀達を見送り、嵐のように立ち去った様を呆然を見つめていた兵の中、緩慢に身を起こした別の兵が怪訝な面持ちで天幕の出入り口を見やる。

「あの方達は恋仲でいらっしゃるのですか?」
「お前は確か少し前に信長様の部隊へ配属になったんだったな。まあ俺達も詳しくはないが、どうやらそういった仲ではないらしい。あくまで公的な話では、だけどな」

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