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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



「ありがとうございます。でも縫合とかが出来ない私が動いた方が効率が良いですよ。光秀さんの隊の方達にも休んで欲しいですし」
「まこと姫らしからぬ御方だ。ああいや、決して悪い意味で申し上げたのではございません。貴女のような方がいらっしゃると思うと、世も捨てたものではないと思うのです」

差し出してくれた手拭いを礼を言いつつ受け取る。凪の言葉は本心だ。金瘡医達には治療に専念して欲しい。致命傷は居ないにしても、重傷者は数十人程居る事に違いはないのだから。渡された手拭いで顔の雫を拭いた凪は、それを丁寧に畳んで袂へ入れた。穏やかな顔で微笑む男は、何処か眩しい目をして皺が刻まれた優しい眦(まなじり)を眇める。その視線を受け、無性に気恥ずかしくなった彼女が困ったように足元へ視線を向けた時、藁敷きの上に身を横たえていた一人の兵が緩慢に起き上がった。

「本当に姫様には感謝しております。俺等なんかに、優しく接してくださって…貴女様の治療のお陰ですっかり血も止まりました。これで明日もまた刀を振るう事が出来ます」
「…そんな、事は」
「ありますよ、普通戦の傷なんて恐ろしくて見たくもない筈です。でも、目を逸らさず対処してくださった。傷を洗った焼酎は、かなり滲みましたけどね」
「違いない!」

他にも天幕内に居た起き上がれる状態らしい兵達が声をかけて来た。彼等は皆、凪が応急処置をした後、傷の程度によって金瘡医へ引き継いだ者達である。
焼酎が滲みた、と冗談めかして笑った男に便乗するよう、他の兵達も明るく笑う。傷を負っているにも関わらず、凪に優しい言葉をかけてくれる彼等を前に、凪はどうにも口にせずにはいられなかった。些か怒った風に眉根を寄せ、明るい笑い声の合間にそれを零す。

「あのですね、皆結構私に言いますけど、俺等なんかってそういう言い方駄目ですよ。誰だって傷を負えば痛んですから、どんな立場だろうと優しくするのは当たり前だし、そこに、身分とかは関係ないです。それから、傷が滲みるのも当たり前です」

むっと眉根を寄せる凪をしばし見つめ、兵達は呆気に取られた様子で口をあんぐりと開けた。身分が関係ないなどとはっきり言ってのけた様に、ただただ驚いたのだろう。

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