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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 宿にて



─────────…

遠くで鳥の囀りが微かに聞こえた。
障子を透かして室内へ射し込んで来る淡い白んだ光は夜明けを象徴しているようで、昨日に引き続き、本日の天候が良い事を伝えている。室内は障子を締め切っている為、完全に陽の光を取り入れているわけではないが、それでも闇夜を塗り替えるように穏やかな明るさに包まれていた。

微睡みの中、上品で心地の良い香りが身体を包み込む。
緩慢に浮上していく意識が身体の状態を感じ取り、腰の辺りに微かな重みが加わっている事に気付いた凪は、霞がかった思考のままで瞼を持ち上げた。
頭を置いているその下が固く、しかし低めの温度を帯びている事に疑問を抱いて幾度か眼を瞬かせた、

──────その刹那。

(ぎゃっ……────!!?)

あまりにも色気のない悲鳴を喉奥へ呑み込み、咄嗟に両手で自身の口を押さえる。
目覚めの一発目、パーソナルスペースを大幅に飛び越えた位置にある、あまりにも整った男の寝顔が映り込んだのだから仕方ない。むしろ声を上げなかった事が奇跡のようだ。

(なに!?どういう状況!?)

黒々とした眼を幾度も動揺に瞬かせながら、胸の内で声を上げる。
暫し目を白黒させたままでいた凪は、尋常ではない速度で早鐘を打つ心臓がその内どうにかなってしまうのではと懸念を過ぎらせつつ、悲鳴と共に呑み込んでいた呼吸を細く吐き出した。

眼前の男───何故か思い切り腕枕をして腰に腕を回し、さながら恋仲のような体勢で寝入っている光秀をまじまじと観察する。
伏せた銀色の睫毛は長く、その影を白い肌へ落としていた。長めの前髪が片目を隠すようにして流れており、薄く射し込む朝日を帯びて白銀色に輝く。整った鼻梁と、形の良い唇。すべてのパーツが計算され尽くしているかのような造形は、控えめに言ってもとんでもない男前であった。

(…下睫毛も長いし、睫毛も長いとかヤバくない?大半の女子を敵に回すよ)

日々美しさを追求している現代の女性すべてが羨みそうな天然の睫毛の束をつい見つめてしまい、それから再び彼の顔を見やる。
光秀の顔を見たのは別に初めてなどではないし、当初から整った顔の男だなとは思っていたが、正直に言えば光秀に限らずこれまでの凪は相手の顔を観察して、尚且つ感想を抱けるような精神状態ではなかったのだ。

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