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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第19章 響箭の軍配 弐



そういった状況は同じだが、せめて凪には少しでも休んで欲しい。戦場に出れば男女の性差など関係ないと思っていた家康の中で、心の奥底に芽生えてしまった感情はあまりにもこの場にそぐわないものだった。

「家康、どうしたの…?もしかして具合、悪い?」

手首を掴んだ状態で黙り込んでしまった家康は、はっと我に返った後で脱力するよう指先の拘束を解く。力なく垂れ下がった腕、凪に触れていた箇所だけがじんわりと熱いかのような錯覚に陥る中、凪が案じる様を露わに眉尻を下げた。
家康にとってこのくらいの働きは戦場に出ればよくある事で、何なら大戦に比べれば余程ましだ。問いかけを否定する意図で首を左右に振り、音にすべきかと逡巡した後、もう一度だけ告げる。

「……具合が悪そうなのはあんただ。少し顔色も悪いし、ここから一度離れた方がいい。そもそも、凪は」
「…家康」

本来、こういうところに来るべき人間じゃないでしょ。
家康が言いかけた言葉の先を読んだのか、あるいは偶然か。控えた調子で名を紡いだ凪は、押し黙った彼の翡翠色の眸を見つめて紡いだ。

「私、その為に家康から色々教えて貰ったんだよ。だから大丈夫。それに、凄く一方的だけど約束したから」
「……なにを?」
「やれるところまで頑張るって」

誰と、などと。そんな事は聞くまでもない気がした。
凪と約束出来る相手を、家康は一人しか知らない。
つきりと痛んだ胸の奥へ、いつかと同じ、呑み込んだ苦いものがじんわり広がって行く。凪を気丈に奮い立たせる存在が、少しだけ羨ましいと思った。

「……言っても聞かないみたいだね」
「私の性格分かって来た?」
「案外単純で無鉄砲で、馬鹿って事は前から知ってた」
「え、そんな風に思ってたの!?」

そっと拳を握り、瞼を閉ざした家康が吐息混じりに零す。凪は理解してもらった事へ少しだけ嬉しそうにはにかみ、家康の顔を覗き込むようにして首を傾げた。存外近い距離で交わる漆黒の眼にじっと見つめられ、無表情のまま抑揚なく告げれば、凪は些かぎょっとした表情で苦笑する。

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