第18章 響箭の軍配 壱
「暴れるって…そんな普段から暴れてる自覚はないですけど…なんかこう、箱枕って落ち着かなくて。今度自分でいっそ枕作ろうかなって思ってます」
「そうか。入用なものがあれば言え」
「光秀さんは?」
「……ん?」
後の世では箱枕ではなく、違った形の枕を使用しているのだろう。寝辛そうにしてる凪を見る度、枕を変えるべきかと思ってはいたが、生憎とこの時代でまともな枕といえば箱枕くらいなものだ。
自分で作ると言うのならば、その方が凪も寝やすいだろう。そう考えていた光秀に対し、彼女は自然な様子で問いかけて来た。
「光秀さんは寝にくいとか無いんですか?そもそも前から気になってましたけど、あんまり枕使ってませんよね?」
「無くても問題はない。特に寝にくいと思った事もなかった。横になれるだけで俺にとっては大層な贅沢だ」
「その解釈は絶対止めた方がいいですよ。……光秀さんは、自分の事、気にしなさ過ぎです」
だから、心配なんです。紡ぎかけた言葉を凪はすんでで呑み込んだ。自分のように戦も知らない小娘が、乱世真っ只中で生きる光秀を心配するなんておこがましい気がしたからかもしれない。戦場に立っている光秀は、凪などより余程色んな事を知り、経験し、様々なものを抱えて生きている。
「……今宵のお前は随分とお喋りだな」
「…普段は速攻寝る奴、みたいな言い草止めてくださいよ」
「あながち間違いではないだろう?」
くすくすと笑う光秀の微かな吐息を項(うなじ)に感じ、凪は至極珍しく、くるりと自ら光秀の方へと身体を向き直らせた。