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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第18章 響箭の軍配 壱



何だかんだと文句を言いながら光秀の馬へ乗せられた彼女は、そのまま同じ馬でここまでの道のりを進んで来ていたのだが、半日以上一緒に居なかっただけで、とても長い時間言葉を交わしていないような感覚になるのだから不思議だ。
何より光秀の様子が無事だと確認出来た事で、つい凪の面持ちが明るくなる。別に日中とて塞いでいる様子は見られなかったものの、光秀が居ると少し雰囲気が異なる事は、家康は勿論として、光忠も感じ取っていた。

「ほう…?待てを覚えたとは良い兆候だ。次は、お手を教えてやろう」
「結構です。…あ、二人とも、ご飯食べますか?」

くつりと喉奥で低く笑った光秀が金色の眼を愉しげに眇める。からかいが過分に含まれた言葉の裏にはしかし、凪が変わりない様子で居た事に対する安堵が滲んでいた。素直に安堵した、と言えない主君の姿へ肩をゆるりと竦め、光忠は主君に合わせるべく、凪からの問いかけの答えを待つ。
光秀はそれを耳にし、凪がまだ夕餉を摂っていない事を見て取り、一度笑みを消した後で僅かに双眸を眇め、微笑を刻んだ。

「…ああ、貰うとしよう」
「では私もいただきましょう」

主君が食すと返事をした事で、それに倣い光忠も同意を示す。光秀の返答へ笑みを溢し、膝の上に置いていた握り飯を二人へそれぞれ手渡した。まだほんのりと暖かい握り飯の包みを、光秀は丁寧に剥く。そこから現れた三角の握り飯を見て、その珍しい形に双眸を瞬かせた。

「随分変わった形の握り飯だな。握ったのはお前か」
「そうですよ。私的におにぎりは三角が定番です。でも、光忠さんの俵型も普通に美味しそうでした」
「どこまでも転がって行きそうな形だったよね」
「……なにか仰いましたか、家康公」
「別に」

形にはさして頓着しない性質だが、やはりこの時代、三角は珍しいようで光秀にまでそう言われた凪は、今度は俵型にしようかなどと考えつつ、自らもようやく夕餉へ手を付ける。
笹で包んでおいた事もあり、少し時間が経ってもまだ握り飯は普通に暖かかった。家康と光忠が交わす小競り合いに耳を傾けながら、凪はちらりと視線を光秀へ向ける。

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