第18章 響箭の軍配 壱
つまり、凪が握った握り飯は三つの形の内のいずれかになる。とんでもない事実に気付いてしまった八瀬を含む男達は、不意に耳に入り込んで来た声へ勢い良く視線を向けた。
「硬え…硬えよお……」
「米の原型がねえ…!」
「普通に美味いぞ、この俵飯…!」
「見たことない形だけど、柔らかくて滅茶苦茶美味いっす!」
(拳骨みたいな丸型は外れ……!!!)
先に握り飯を頂いた面々の様々な反応を目の当たりにし、三択から二択へ絞られた事実が以降に並んだ男達を追い詰める。俵型か三角か、ある意味三択よりも外れたらいっそう悔しい選択が着々と迫られる中、奥の天幕から覗く柔らかな金色の髪を目の当たりにした瞬間、八瀬の脳裏に訓練時の嫌な記憶が蘇った。
天幕から補給物資の確認を終えた家康は、配給の列を目の当たりにして半眼になる。相変わらずせっせと握り飯を焼く凪が、延々と火の傍に身を置いている所為か、額に薄っすらと滲んだ汗を手の甲で軽く拭った。それを目にした瞬間、不機嫌も露わに歩き出した。凪の隣、どんどん積み上がる握り飯を更に積み上げて行く屈強な医療兵へ近付き、焼き上がりの個数をざっと確認した家康は男へ声をかける。
「追加で隣の分も頼む」
「承知致しました。焼きには自信があります」
「そう、それなら丁度いい」
一体何の自信なのか皆目分からないが、凪の七輪へ補充を担当していた兵からまだ焼いていない分の握り飯が乗った籠を受け取り、隣に控える屈強な医療兵の傍へそれを置いた。
「じゃあ宜しく」
「お任せください!」
意気揚々と七輪へ握り飯を並べて行く男を視界の端に捉え、家康は迷いなく凪の前に出来ている長蛇の列へと足を向ける。そうして一人の男の前で立ち止まり、翡翠の眼に淡々とした色を乗せたまま無情に言い放った。
「あんたから後ろは全員隣の列。ほら、さっさと散って」