第18章 響箭の軍配 壱
一方その頃、再戦を堅く誓った男、八瀬(やせ)はまたしても浅次郎(あさじろう)達同期三人組の後ろに並んでいた。当然凪の列である。訓練の時は家康によって彼女の列から散らされた八瀬だったが、散らした当人である家康の姿が無い今が好機とばかりに場所を陣取ったのである。一応浅次郎達からの気遣いで、自分達の前を譲ると言われたのだが、妙な義理堅さがある八瀬はまたしてもそれを辞退し、自らの運試しと言わんばかりにあと数人と近付いて来た自らの番に胸を高鳴らせ、待っていた。
「…なあ八瀬、お前本当にいいのか?俺は別に後ろの方でも…」
「いや…!そういう小狡い真似はしたくない!運も実力の内っていうし、今度こそ俺は己の力で凪様が焼かれた握り飯をいただく…!」
「………割と前から知ってたけど、お前馬鹿だな。八瀬」
気遣いを重ねてくれた浅次郎の申し出を丁重に断った八瀬の目は真剣だ。呆れが過分に含まれている眼差しを向けた浅次郎は、握り飯を貰った後の面々の様子を見やり、僅かに眉根を寄せる。
「でもよ、今回はただ姫様から頂ければいいって問題でも無さそうだぜ?」
「あ、それ俺も思ってた!列から外れた奴を見ると、何か色んな形の握り飯持ってるよなー」
怪訝な様子の浅次郎へ同意するよう、八瀬の前に並んでいた同期が頷いた。浅次郎の指摘通り、凪から握り飯を貰って喜びも露わな男達の手元には、拳骨のような丸と綺麗な三角、俵型の握り飯がそれぞれ持たれている。凪がこの人数分の握り飯を全て握ったとは考え難い。そこまで思考を巡らせて結論に至った男達は目を見開いた。
(三種類の中で、二種類は外れ…!!!)