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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第18章 響箭の軍配 壱



山中に陣を敷く光秀の隊がどのタイミングで攻めてくるか分からない為だ。
だが、武将が確かめたい事はそんなものではない。真っ直ぐに男を射抜いた武将の固い声が清秀の鼓膜を震わせる。

「貴方様は、まこと我が軍に勝利を導かれる心づもりがおありか?」

武将の言葉に、清秀は一度口を閉ざした。口元に浮かべていた笑みを消し去り、灰色の眼を静かに眇める。表情を消した男は、女が熱を上げる程の美貌が特に冴え立ち、作り物のような印象を受けた。注がれる眸は南蛮の硝子玉のようであり、そこに乗った感情をなに一つとして読み取れない事実に武将の背へ冷たい汗が伝い落ちる。やがて、男がそっと囁いた。

「勿論、この国に勝利をもたらさんとしているよ。……ただ、暗愚な将を頭に据えられては、私の策も下策となり下がる。それを両腕で何とか支えるよう死力を尽くすのが、君の役目だ」
「相変わらず無礼千万な男だな、貴方様は」
「……君に何を言われ、罵られたところで、私の心は何一つ揺らがない。やっぱり、あの子でなければどうやら駄目みたいだ」

笑み一つ浮かばせずに言い切った男の言葉には真実がひとつとして見えない。これ以上何を告げたところで無駄だろうと判断した武将は、小さく頭を下げるとその場を辞した。背を向けて立ち去るその姿を見送った清秀は、ほんの僅かに双眸を眇めた後で着流しの裾を優雅に翻す。

「やっと君に会える。約束通り、私に会いに来ておくれ。私の姫君…君が注ぐ毒の盃を呷りながら、待っているよ」

薄い唇から音を漏らした。何を語る時よりも熱のこもったその音は夏の空に溶けて消える。緑の草原があまりにも不釣り合いな暗闇の住人は、着流しの裾を優雅に捌きながら喧騒に満ちた陣の奥へと姿を滲ませたのだった。


───────────────…


「………何故私が、このような事を」

小さく呟いた光忠はとにかく解せんと言わんばかりに仏頂面で木製の大きなおたまを持ちながら、竹筒へ湯を注いでいた。光忠の前には大勢の兵たちが並び、列を成している。

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