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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第18章 響箭の軍配 壱



焦燥混じりに告げた男の口元が強張りを見せる。緩慢に瞼を持ち上げた男────中川清秀は勿体ぶった調子で静かに告げた。
清秀の発言を耳にし、呆然とした様子で表情を失くした大名は、ただ目の前に立つ男の姿しか目にする事が出来ずに脂汗の滲む面を凍りつかせる。
傅いたままの武将は、己の主君を悪戯に煽る男へ咎めの眼差しを向け、些か固い声色で告げた。

「清秀様、そこまで仰るのであれば、当然敵の配置や敵将の姿を捉えているのでしょうな」
「そう怒らないで欲しい。私は強い叱責は苦手なんだ」
「何を娘御のような戯れを仰る…!」
「よい、控えよ。……して、清秀殿、お聞かせ願いたい」

肩をゆるりと竦め、冗談めかして告げる清秀に対し、武将は苛立ちを露わにするが、それを厳かに制したのは大名である。窺うような眼差しを向けて来た大名に対して笑みを浮かべ、机上に広げられた地図へ向かい立った清秀は、白く長い指先で朱色に塗られた駒を取った。
それを手の中でわざとらしく弄んだ彼は、固唾を飲んで見守る大名の前で、とん、と静かな音を立てつつ凸の形に刻まれた木製の駒をとある場所へ置く。

「ここに一隊が潜んでおります。数は確認していませんが、まあそれなりと見て間違いないでしょう。率いる将は────織田軍の、化け狐」

色素の薄い唇が、三日月の形に刻まれる。ほとんど確信的な男の発言を耳にした大名の血の気がさっと引き、一気に青白くなった様を見て武将は案じるかのような視線を向けた。
織田軍の化け狐、姿形はともかく、その呼び名を知らぬ者は戦に携わるものならばそう居ない。大胆不敵な戦術と狡猾な手段で戦場の空気を一変させる男、しかしその手腕は確かであり、敵に回せば手強いと言わしめる魔王の左腕。
よりによってそんな厄介な男が潜んでいるとは思わず、大名は地図へ視線を投げた。そして、清秀が駒を置いた箇所へ目をひん剥く。

「こ、このようなところに陣を敷いただと…!?」
「……御前を失礼致します。……これは、まことですか、清秀様」
「山中だから精度は確実とは言えないけど、まあおおよそは」

光秀が陣を敷いた山中の場所を、地図で簡易的にではあるが示した清秀は二人の反応を目にして面白そうに灰色の眼を眇めた後、くつりと笑いを零した。

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