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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第17章 月に叢雲、花に風



光秀の声は静かだった。あらゆる可能性を考慮し、尚且つ知りうる限りのそれぞれの性格を思い、男は凪の強張りを解くようにして背を優しく撫でる。真摯に注がれる眸の奥に、光秀なりの決心を見て、凪は彼が言おうとしている事を察し、無意識に掴んでいた白い着物からそっと手を離した。

当初、下手に情報が広がるよりは自分と信長の二人で把握するべきと考えていたが、予兆のない強制的な予見はかなり厄介である。凪がこの御殿から一歩も出る事なく過ごすならばまだしも、行動範囲がぐっと広がった中で、いつでも光秀が傍に居て守れる保障はない。
本来ならば、信用のおける最低限の人間にそれを打ち明け、情報を共有した方が凪を守る事が出来る。
今や光秀の中では、この時代の人間では到底得難い情報を持つ凪を守る事ではなく、凪自身を守る事が優先となっている以上、答えを出す事は容易だ。それが、自らが信を置く重臣と、この状態の彼女を見ても、動揺を露わにしない家康ならば尚の事。

「……何を【見た】?」
「…光秀様」

静かに問いかけたそれに、光忠が静かに息を呑んだ。凪は光秀の視線を受け、その問いかけが意味するところを悟り、僅かな逡巡を見せた後、彼女自身も覚悟を決めた様子で一度瞼を固く閉ざし、やがて緩慢に再び眼を覗かせる。
光秀を信じると決めた凪にとって、彼が信用すると判断した相手ならば、ましてここ数日一緒に過ごした家康ならば、自分自身も信用出来ると決めたのだ。

「多分、戦の途中なんですけど…何処か山の中に隠れてて、それがこの前の訓練で見掛けた兵の人だったんです。雨が降ったから鉄砲が使えなくて、奇襲は失敗だって。そうしたら、突然遠くから、矢が…それで…っ」
「もういい。そこまで聞けば十分だ」

言葉尻が詰まって震える凪の様子に、光秀が制止をかける。戦を経験したものであれば、その先は聞かずとも理解が出来た。後頭部へ回した手でぽん、と優しく撫でた光秀は凪の身体を包んだままの体勢で、無言を貫き話を聞いている二人へそれぞれ視線を合わせ、やがて真剣な面差しを浮かべた後で声色を低める。

「────…これから話す事は俺と信長様しか知らない。二人共、他言無用で頼むぞ」


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