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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第17章 月に叢雲、花に風



それだというのに肝心の光秀は否定の素振りが微塵もなく、新しいネタまで出して来る始末だ。仔犬の次は雛鳥か。どんどん例えが小動物化していくのはいかがなものかと眉根を顰め、つい語気荒く主張する。そんな中、まったく見当違いな方向からの言葉が正面の席から飛んで来た事につい意識が持って行かれた。

「凪、何をしている。早く光秀様へ豆を食べさせて差し上げろ。お前がやらぬなら私がやる」

(何で私が怒られてるの!?理不尽!)

光忠はどうあっても、黒豆を主の健康の為にも食べさせたいようである。光秀に豆を食べさせない事へ叱責を受けた凪があまりの理不尽さに眉根をぐっと顰める傍ら、席を立ち上がりかけた光忠を視界の端に捉えて光秀はにべもなく言い切った。

「お前は来なくていい」
「ならば身体の為にもお召し上がり下さい」
「お前の顔を見る度、俺に豆の事を思い出させたいのか」

動きを封じるかの如くぴしゃりと紡がれ、光忠の面持ちが不満そうに笑みを消す。その光忠が浮かべる憮然とした表情は、笑みを消すとますます光秀に似通い、両者の顔を交互に見比べた凪には、この端正な顔立ち二人が黒豆の事で静かに言い合っている様が妙に可愛く見えていた。

「では、蝮酒の方がお好みで?」
「…やれやれ、俺と似た顔立ちで健康志向とは、秀吉辺りには到底見せられないな」
「政宗さんも嬉々として突っ込んで来るでしょうね」

吐息を零しつつ、光秀は仕方ないと言わんばかりに豆を一粒口に運ぶ。確かに秀吉がこのやり取りを見たら、確実に突っ込んで来るであろうし、家康が言う通り政宗もそうするだろう。むしろ食に関してだけは政宗と光忠は気が合いそうである。
小さく突っ込みつつ、家康は袂から取り出した唐辛子の入れ物の蓋を開け、黒豆へ容赦無くかけた。黒豆が赤豆へ変わって行く姿を視界の端へ収めた光忠は、些かぎょっとした様子で切れ長の目を見開く。

「……家康公、味覚はご無事か」
「何でそんな事あんたに心配されなきゃいけないわけ?」
「家康はあれが正常だ」
「でも家康さんが持って来てくれたお漬物は、適度な辛さで美味しいですよ」

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