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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第17章 月に叢雲、花に風



おそらく光忠を含めた空間に放り出されたくないのだろうと容易に察する事が出来、家康は内心で微かに吐息を漏らした。突っぱねて帰ってしまえばいいものを、確実に面倒臭くなると分かっていながらそう出来ない理由は分からないが、縋る眼差しを無碍には出来なかった。

「……ここの主は光秀さんだ。光秀さんが良いって言うなら俺は構わない」

渋々、といった色が過分に見える返答に、凪が幾分安堵を見せる。実はしっかり凪を背後から抱き寄せたままであった光秀は、おもむろにその腕をようやく解いた後で口元へ微笑を乗せた。

「元々一人はまったく予定のない客だ。それから何人増えようが変わらない」
「…はあ、じゃあ少しの間だけ同席させて貰います」
「ああ、すまないな家康」
「いえ」

おそらく厨では今頃家臣達がささやかな酒宴の準備をしている頃だろう。人数が多少増えようがさして問題はないと言った光秀が静かに九兵衛へ目配せをした。それを受け、小さく頷いた部下が静かに厨へ向かうのを見送った後、家康は今度こそ諦めた様子で瞼を伏せる。
ただ届け物をしに来ただけだというのに、一気に疲労を感じさせる姿を見て、光秀は色んな意味を込めた二度目の謝罪を述べるも、家康はただ短く返しただけだ。

かくして、光秀と凪、光忠、家康で開かれる奇妙な縁側の酒宴が催される事が確定したのだった。


──────────────…


刻限も回り、六つ半(19時)頃を過ぎれば夏の時期と言えども辺りは暗くなる。九兵衛が行灯に火を灯し、光秀の自室がぼんやりと明るく照らされる中、障子を開け放った縁側付近には人数分の膳が運び込まれていた。
縁側を背にして光秀と凪が隣り合い、光忠は光秀の正面へ向かい合う形で座っている。家康は凪の前に居るが、光忠の隣は辞したいらしく、やや歪なコの字型の席順だ。
膳の上にはそれぞれ空の盃と料理が並んでおり、汁物と焼き魚、酢の物などが乗せられていて、小鉢には光忠が持参したという土産の黒豆が盛り付けられている。更にその横にある小鉢には胡瓜の赤みが強い漬物があり、これは家康が漬け過ぎたから、という理由で壺に持参してくれたものだ。

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