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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第17章 月に叢雲、花に風



両者の視線がぶつかったところからバチバチと弾ける見えない火花が見えた気がして、凪は内心冷や汗をかく。この事態を収拾出来るのは、もはや部屋主たる光秀しかいない。そう思うといっそう光秀の帰宅が待ち遠しくなり───むしろもう早く帰って来て欲しいと心底願わずにはいられない凪だったが、その祈りが天に通じたのか、開いたままであった襖の向こうに待ち望んだ相手の姿を見やり、彼女は思わず立ち上がった。

「光秀さん…!」

部屋の入り口へ至った光秀は、室内に流れる不穏な空気を肌で感じると同時、些か縋るような声色を発した凪の声に眼を瞠る。
それと共に彼女の声をきっかけとして部屋主───光秀の帰宅を知った家康と光忠の横を小走りで駆けて行く凪が映り込んだ。
自らの元へと近付き、目の前に立った凪の面持ちが困窮した色を帯びている事へすぐさま気付いた光秀は、室内の空気感と彼女の表情で大まかな事情を把握したらしく、持ち上げた片手で凪の頭をぽん、と優しく撫でる。

「今戻った。良い子で留守番は出来たらしいな」
「留守番どころじゃないです…!突然嵐にみまわれた気分なんですけど…っ」

言い得て妙といったところだ。言わずもがな、嵐とは光忠の事である。必死に訴えかけて来る凪を宥めるよう、再度頭を撫でた後で光秀はその手を緩慢に下ろした。
三成の元で入用な書物を借り、軽く話を交わしていたところで珍しく息を切らした九兵衛がやって来た時は驚いたが、部下が告げた内容に納得すると三成へ礼を告げ、すぐにこうして御殿へ引き返したという訳である。凪と光忠の性格を思えば、あまり相性自体が色んな意味で良くないだろうと予測は出来ていたし、光忠が凪へちょっかいをかける事も分かっていたが、よもやこの場に家康が居合わせていたとは、さすがの光秀も予測出来まい。
加えて、十中八九家康と光忠の相性も、凪以上に最悪だろう事は部屋の様子を見るに明らかだった。

「そういう男だ。黙って嵐が過ぎ去るのを待つか、軒下に非難するのが懸命だろう」
「軒下って光秀さんの事ですか」
「吹き付ける風を防ぐのは些か難儀だが」

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