• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第17章 月に叢雲、花に風



「………まあ、顔立ちはなかなか愛らしくはある。が、お前程度の女ならばそこらじゅうに転がっていよう。特別お傍に召したくなる理由が分からない。…あるいは、その色気のなさを覆す程、夜伽の手管が優れているのか」
「はあ!?」

あまりに不躾且つ失礼極まりない物言いをされては、凪とて黙っていられない。苛立ちを露わに眉間へ皺を深々と刻んだ彼女は自身の顎にかけられている光忠の腕を思い切り片手で払う。ぱしん、と乾いた音が室内に響く中、次いで凪の怒気孕んだ声が鼓膜を揺らした。

「そもそも、光秀さんと私はそういう仲じゃないんですけど!!?」
「ではどのような仲だ」
「護衛と護衛対象の仲です…!!」
「は?」

とんでもない誤解をしているらしい光忠に対し、且つ女性を軽んじるかのような物言いをするそれに眦が上がる。大きな猫目で睨み、効果などさしてありはしない怒りの面は男の興をいやにくすぐった。姫らしくはないが、随分生きの良い女だ、畏まった形式ばかり、男の顔色ばかりを窺って媚を売る女よりは余程遊び甲斐がある。そんな事を考えていた光忠の内心など露知らず凪が言い切った返答へは、さすがの光忠も一瞬目を見開いた。

「……あの光秀様が護衛という事は、お前は本当にそれ相応の身分だとでも言うのか」
「そ、そうですよ…!(どの程度の身分か分からないけど)」
「………これは失礼。色気がない事は訂正しないが、無礼は詫びよう」
「本当にお詫びする気あります!?」

自らの主君たる光秀が護衛役、という事は相手はただの一般庶民ではないと光忠とて理解出来る。念の為、再度確認した男の切れ長な眼を見つめ、凪は怯んだら負けとばかりに頷いた。しばらくの沈黙ののち、光忠はやがて悪びれた様子があまり窺えない調子で長い睫毛に縁取られた瞼をふわりと伏せて告げる。あくまで色気がない、は訂正したくないのか、わざと煽っているのか。どちらにも当てはまりそうな男へ凪はひくりと顔を顰めた。

「口で詫びるだけではご不満か。では、接吻一つで許していただいても?」
「そういうのはお詫びじゃないし、大して悪く思ってないなら謝らないでください!」

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp