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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第4章 宿にて



「そうか。いつかは分からないにせよ、帰る事が出来る可能性があるというのなら、それに越した事はない。…どの道お前は信長様に気に入られている。大人しく安土で暮らすのならば、食うに困る事はないだろう」

(…本当の事言えなくて、ごめんなさい)

「仕事はちゃんとしますよ。世話役って、具体的に何をするのか分かんないですけど」

自身の言葉を疑う事なく受け入れた光秀に対し、心の内で謝罪を零した凪は、自然なままで会話を終わらせると閉め切られた障子を見上げた。
空に昇る薄ぼんやりとした淡い黄色は、薄い障子紙で仕切られている所為で見る事は叶わない。そのまま視線を障子へ向けていると、視界の端で男が動いた。
畳へ置かれたままの二人分の湯呑みを盆の上へ片付け、立ち上がって文机へ置いた彼はその足取りで部屋の隅にある燭台の灯りを落とす。
いくつか置かれている燭台の内、文机に近いものだけ残してそれ以外を全て消し去ると、室内は途端に暗がりへ転じた。
ぼやけて揺れる燭台の灯りを受け、男の長身の影が障子へ映り込むのを認めて凪が振り向く。

「さて、良い子はそろそろ寝る刻限だ。明日も早くに此処を発たなければならない。初めての長旅は疲れただろう?今日はもう休め」

距離を詰めた光秀が立ったままで低い位置にある凪の頭を優しくひと撫でした。結ばずに背に流した黒髪は触り心地が良く、思わずさらりと指でそれを梳いた男は、己の行動に一瞬驚いた様を見せたが、すぐに何事もなかったかのように口許を笑ませる。

「わかりました。…じゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

頭を撫でられた事に対し、凪は拒絶を見せなかった。
灯りを落とされた所為か、あるいは色々と張り詰めていたものが一気に緩んだのか。どんな理由にせよ、眠気が少しずつ迫って来ていたのだろう、些か覇気のないぼんやりとした声色で頷くと、光秀の言葉に従って静かに立ち上がる。
光秀の使用する褥から離れたところまで移動させてある、もう一組の褥へ向かい腰を下ろせば、肩に羽織ったままの羽織に気付いてそれを脱ごうとしてみせた。

「それは羽織ったままでいろ、返すのは明日の朝でいい。気にするな」
「…ありがとうございます。一晩、お借りしますね」

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