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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



光秀の前で立ち止まった凪は手にしていた手拭いを差し出す。きっちり絞られたそれはいかにも冷たそうで、訓練により汗を流した身体にはきっと心地よいだろう。
彼女の手へ視線を一度下ろし、そうか、と短い相槌を打った後で光秀は装弾を終えた銃を腰に下げた。そうして一歩凪へ近付いて距離を埋め、ふと何処となく悪戯に双眸を眇めると、そのまま軽く身を屈める。

「え…」

手拭いを受け取らぬまま、自らへ顔を軽く寄せた光秀が目の前でふわりと長い睫毛の影を白い肌へ落とした。小さな戸惑いの音をひとつ溢し、虚を衝かれた様で眸を瞬かせていたが、何となく光秀の求めている事を察し、凪の耳朶が赤く染まる。

「み、光秀さん…!」
「さすがにこの気温の中で動くと、少しばかり暑いな」
「う、」

文句を言う為に男の名を呼べば、それへ重ねるようにして光秀が微笑したまま呟いた。何人もの兵達へ応戦していたのは、一度天幕へ引っ込んでからも相手取った兵達から聞いて知っている。炎天下、とまではいかないも日の高い刻限にそれだけ動けば汗とて掻くだろう。
暑くとも基本的には涼しい面持ちを浮かべている光秀の、白い肌へこめかみから伝った一筋の汗がゆっくり伝い落ちていく様を認め、凪は葛藤の末、手にしていた手拭いを畳み直した。

「…う、動かないでくださいね」
「善処はしよう」

赤く染めた耳朶をそのままに、凪が念押しのように告げる。短く笑った光秀へ疑いの眼差しを一度投げるも、瞼を伏せている彼に効果はない。
畳み直した手拭いを片手に、そっと腕を持ち上げた。そのまま軽く背伸びをし、冷たいそれを光秀のこめかみへあてがい、優しく汗を拭う。それから長い前髪を軽く反対の指先で払ってから額を拭い、反対のこめかみへも手拭いをあてがった。
瞼を伏せたままの光秀を間近で見やり、時折吹き付ける風によって軽く濡れた前髪がさらりと揺れる様は、白んだ光も手伝ってきらきらと美しい。それへ思わず一瞬目を奪われてしまった凪の手が無意識に止まれば、同時に光秀の伏せられていた瞼がゆっくりと持ち上げられた。
間近でぶつかった金色の双眸が彼女の漆黒の眼を捉え、そっと眇められる様にどくりと鼓動を跳ねさせた拍子、不安定な背伸びをしていた彼女の身体が後方へぐらつく。

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