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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



「姫様、あまりそれを続けられておりますと、手が荒れてしまいます。後は俺が代わりますので、どうぞお休みを」
「あ、五郎(ごろう)さん!お疲れ様です、別に手なんて気になりませんし、大丈夫ですよ」

凪の隣へしゃがみ込んだのは五郎という医療兵であり、配給の折に彼女の隣でちまきを恐ろしい速度で捌いていた屈強な医療兵である。他の医療兵よりも年上らしい雰囲気を漂わせた男は、いかつい面持ちを朗らかに笑ませて気遣いの言葉をかけて来てくれた。
彼は家康が居ない時に他の医療兵を取りまとめる古株であり、男に厳しく女に優しくを信条とした男らしい性格の持ち主である。ちなみに、まったくの余談であるが今年五歳になる一人娘が居るらしい。

「変わった姫様だ。普通の姫君は自分の手が荒れるような事なんて進んでなさらないものですぞ」
「そ、そんなものでしょうか…」

凪の発言に対し、困ったように眉尻を下げた男はしかし、好感を覗かせて笑うとやんわり彼女の手から手拭いを取った。

「では貴女様が絞られたその手拭いは、あの御方の元へ持って行って差し上げてはいかがですかな?後の野郎共の相手は俺が致しましょう」
「…!は、はい!じゃああの…お言葉に甘えて、ちょっと行ってきますね」
「ええ、走られて転ばれないようにお気を付けください」

五郎の言葉に促され、先程絞って籠に置いた冷たい手拭いを手にし、おずおずと遠慮がちに頷く。穏やかな調子の男の声を背に受けて頷き、凪は光秀の元へと軽く駆けた。
背後では五郎の逞しすぎる手によって固く絞られた手拭いが兵達へ投げ付けられており、ちょっとした賑やかな雰囲気になっている中、彼女は視界に捉えた光秀の姿へ声をかける。

「光秀さん…!お疲れ様です」

訓練の為に一度抜いた火薬や弾を自らの愛銃へ込め直していた光秀は、かけられた声に顔を上げ、近付いて来る凪へ軽く目を瞬かせた。彼女の背後に広がる屈強な医療兵によって引き起こされている事態(割と毎度の事である)へ何となく状況を察し、そっと苦笑を浮かべる。

「ああ。…五郎が引き継いだのか」
「はい、光秀さんにこれを持って行ってはどうかって言われたので、お言葉に甘えちゃいました」

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