第16章 掃き溜めに鶴
(わっ…凄い迫力…!)
日が中天を少しだけ過ぎた頃の日差しはいっそう強さを増している。気温も午前中より高くなり、風が頬を撫ぜる度に心地良さを覚える中、目の前の光景はとてつもない熱気に満ちていた。
ある程度距離を取りつつ、二人一組となった兵達が互いに技を繰り出し合い、銃を用いて上手くいなし合っている。
かん、かん、と銃身がぶつかり合う音が響き、その合間に繰り出される一打の応酬は、確かに組手と呼ぶに相応しい動きだった。
周りを一通り見回し、その中で一際目を惹く存在に凪の意識と視線は自然と縫い留められる。
(光秀さんだ)
光秀は誰かと組んでいるという訳ではなく、自ら挑んで来た兵達の相手をしているようだった。
相手から繰り出される一撃を優雅に避ける度に白袴と帯飾りの長い紐が翻る。戦いではなく、優雅な舞でも舞っているかの如く無駄のない足捌きで間合いを的確に保ち、入り込んで来たところへ重い一撃を食らわせるその所作は、流れるような動作も相まってとても美しい。
銃身を払い、懐へ入り込むと同時に寸止めの形で蹴りを食らわせて、勝負有りと口角を上げるその姿は自信に満ちており、凪はしばらくそこから目が離せないでいた。
ふわりふわりと舞う真白なそれを見つめていると、光秀の眼と凪のそれがばちりとぶつかり合う。
午前中の事を思い出し、またしても妙な意識に駆られてしまうと思った凪は鼓動を一つ大きく跳ねさせた後で赤くなった顔を咄嗟に背けた。
(やばい、また格好いいとか思ったらどきどきが収まらなくなる…!もう天幕に戻ろう…っ)
指南を受けている最中だというのに、集中が削がれてしまっては大問題だと見え透いた言い訳を誰に言うでもなく、心の中で溢し、凪はそそくさと身を翻して天幕へ戻る。
そんな彼女の後ろ姿を、光秀は少し可笑しそうに、けれど柔らかな眼差しで見つめていたのだった。