第16章 掃き溜めに鶴
(訓練でも容赦ないな…でも手抜いたら訓練にならないよね)
どうやら八瀬がぼろぼろな原因は光秀らしい。家康も流石に呆れているのか、白けた眼差しを八瀬に注ぎつつ、擦り切れた場所に消毒用の焼酎をかけた。
傷口を縫う必要まではないだろうという事で、消毒が乾いたら擦り傷に効く軟膏を塗り込み、包帯を巻いていく。塗り込みの程度や指にすくう量、包帯の緩みにくい巻き方などを教えて貰い、実際に凪が八瀬へそれを施していった。
手先は案外器用であったらしく、彼女は家康の指導の通りてきぱきと幾つかある傷を対処する。
「こんな感じでどうですか?」
「……へえ、案外悪くないんじゃない?もっと包帯巻くの下手くそかと思ったけど」
「お上手です、凪様…!」
「ありがとうございます」
八瀬への傷の対処を窺うように見せれば、家康が感心した様子で双眸を瞬かせていた。それに加えて八瀬からも絶賛され、少し気恥ずかしくなった凪がはにかんだ様子で礼を言いながら笑う。その後、再び光秀に挑んで来る意を告げて意気揚々と天幕を出て行った八瀬を苦笑しつつ見送った凪の横で、家康は半眼のまま男の背を見やった。
「……なんなのあれ、馬鹿なの?」
「多分光秀さんの事大好きなんですよ、八瀬さん」
「そういう問題?」
どうでもいいけど、と付け足した家康は一度落ち着いた天幕の中を見やり、凪へ視線を投げる。
いつまた波がやって来るか分からない以上、休める時に休んでおいた方がいい。
「今は落ち着いてるから、少し休憩して来なよ。まあせっかくの機会だし、組手でも見学してくれば」
「分かりました、じゃあちょっとだけ休ませて貰いますね」
実は天幕の外で何が繰り広げられているのか、密かに気になっていたのだ。家康の言葉に甘える事とし、中に居る医療兵へも声をかけて一度天幕を出た凪は、その瞬間目の前に広がった光景に息を呑む。