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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



二人のやり取りを視界の端へつい収めてしまった家康は、何故かじくりと痛んだ胸の奥底の感覚に内心眉根を寄せる。
二人の態度が親密な様は、一番最初に開かれた術計の宴の折にも垣間見えていた事だ。手を繋いでいた事は若干面食らったが、今更驚く事ではない。

(………なんで、こんなに)

気にかかってしまうのか。ただの興味で片付けてしまうには難解過ぎる感情は、家康の中で確実に持て余されてしまう。溢したくなる溜息の代わりに咀嚼したものを呑み込んだ筈が、その感覚すら鈍くなる様に、彼は静かに瞼を伏せる事しか出来なかった。


─────────────…


────そもそも、医療部隊が本格的に仕事をするのは、あの人の訓練の場合だと大体午後からだから。

配給や休憩に入る前、家康が小さくぼやいていた言葉の意味を、今まさに凪は身を持って実感していた。

「そこ、打撲は下手に動かさない。後で薬処方するから取り敢えず手拭いで冷やして」
「は、はい…!」
「そいつはかすり傷。適当に焼酎かけて外へ放って」
「はい…!!」

次々に飛ばされる家康からの指示を受け、凪は天幕の中であちこちへと飛び回る。他の医療兵達も水汲みに走ったり、あるいは火に湯をかけたりと忙しなく動き回っていた。
というのも、休憩が明けて午後からの訓練へ移行した途端、医療天幕へ訪れる者が急増したのである。

(一体外でどんな訓練してるの光秀さん…!?)

午前は静寂に満ちた中、号令と共に銃声が響く以外は緊迫感溢れるものの、怪我人が出ないという意味では穏やかな訓練だったのだが、様変わりした午後の訓練内容を知らない凪は心の中で光秀へつい突っ込んだ。
怪我人が急増したのは、午後の訓練が二人一組で行われる、かなり本格的な組手だからである。組手と言っても素手ではなく、火薬や弾を取り除いた銃を手にした状態でのもので、銃を手にしているからといって、必ずしも遠距離戦とは限らないが故の、対接近戦対策の為の組手だ。相手の攻撃をいかに銃片手にいなす事が出来るか、というものである。
拳と拳ではないが、拳と銃、あるいは銃と銃で肉弾戦を繰り広げている事もあり、生傷が絶えず、医療兵達は忙しなく動き回る事となっていた。

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