• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



凪の足を好き勝手見た事への意趣返しのようなものである。
その様子に驚いていないのは光秀の御殿に仕える家臣達のみで、彼らは何なら主と姫が同衾していたとの噂を耳にしているので、手繋ぎくらいでは動じない。

そんな訳で様々な驚愕のこもった視線を受け、しかしそれに気付く事なく家康の元へ辿り着けば、凪はそっと繋いでいた光秀の手を解放した。ちなみに、二人がそうして手を繋いでいる様は家康にもしっかりと目撃されている。
凪が家康の傍に座ると、彼は二人分のちまきを若干胡乱な目で手渡した。

「……あんた達、いい大人が何で手繋いで戻って来てるんですか」
「ありがとう…って、え!?」

ちまきを二つ受け取り、礼を紡いだ拍子に小さく声を漏らした凪は危うく動揺から手にしたちまきを取り落しそうになる。あまりに自然な様子で光秀と手を繋ぎ過ぎている為、まったくそういう意識がなかったらしい彼女は、指摘された事にじわりと耳朶を淡く染めた後、困った様子で眉尻を下げた。凪の隣に胡座をかいて腰を下ろした光秀は彼女の赤く染まった耳を見やり、伸ばした指先でぴん、とそれを弾く。

「無意識で繋いでいたとは、なかなか可愛げのある仔犬だな」
「っ…、もう!からかわないでください…っ」

顔を軽く近付け、鼓膜を直接震わせるようにわざと低く囁きかければ、意地悪く口角を持ち上げた。耳朶を指先で弾かれた事で小さく息を詰め、肩をひくりと震わせた凪が弾かれた方の耳を片手で押さえつつ振り返り、眉根をむっと顰めて文句を言う。一連のやり取りを面倒臭そうに眺めていた家康は自分の分として取っておいたちまきを手にして笹の葉を剥き、些か理由の分からない感情を退けるかの如く、袂から取り出した唐辛子の入れ物の蓋を開け、手元のちまきを真っ赤に染め始めた。

(………はあ。さっさと済ませて、薬の在庫でも調べるか)

「はいこれ、光秀さんの分ですよ」
「ああ」

そんな事を考えているなど露知らず、凪はむんずと光秀の分のちまきを押し付けるようにして手渡す。
仕方なしに受け取る様子を認めてから彼女はちまきの笹を剥こうと手を伸ばした。

「……食べないんですか?」
「笹を剥くのが面倒だ」
「どんな理由!?」

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp