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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



先頭に立った八瀬へ、その前に構えていた屈強な医療兵が些か同情を含ませた眼差しを向けつつ、暖かいちまきを男へ差し出す。

「残念だったな、お前さん。あともう少しだけ早けりゃ、姫様から貰えたのによ。おら、これでも食って元気出しな」
「ありがとう、ございます……」

節立った大きな手のひらには不釣り合いなちまきを受け取り、八瀬はそっと溜息を漏らした。ちらりと視線を向けた先では、同期が凪に笑顔を向けられながら言葉を交わしている。
あの時、浅次郎が譲ってやると言われた時、素直にそうしてもらっていれば、今頃……そこまで考えて無性に虚しくなった八瀬は、深々とした溜息を漏らしながら味噌汁を貰いに重い足取りで歩いて行ったのだった。


──────────────…


家康のお陰で列を捌き切った凪は、後はお任せくださいと声をかけて来てくれた隣のちまき担当の言葉に甘え、休憩をいただく事となった。屈強な医療兵は恐ろしい速度でちまきを捌き、既に残すところ後数名となっていた為、凪はある姿を探して草原へ視線を巡らせる。
各々好きなところに散って昼休憩に入っている中、兵達が休んでいる少し離れたところで銃の手入れをしていた光秀の姿を見つけ、駆け足で近付いた。

「光秀さん!」

声をかければ、彼はおもむろに顔を上げて凪の姿を捉え、微かに目を瞠る。配給を終えるにはもう少し先かと思ったのだろう、光秀は傍へ寄って来た彼女を見上げた。

「配給はもう終わったのか」
「途中で家康さんが休憩をくれて。多分もう訓練兵さん達全員には配り終えて、医療兵の人達が頂いてる頃だと思います」
「そうか。なら、お前も休むといい」

光秀の傍に寄った拍子、普段感じる薫物ではなく硝煙の香りが漂って来る。手入れを終えたらしい光秀が銃口を磨いていた手拭いを畳んで袂へ仕舞う様を見やり、凪は地面へ胡座をかいて座っている彼の前にしゃがみ込んだ。

「別にそんな疲れてませんよ。むしろ何だか楽しかったです」
「それは何より。だが、午後からは楽しいだけでは済まない筈だ。家康にしごかれて泣きを見ないよう、休める時に休んでおけ」

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