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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



別に凪を気遣っている訳では、全然まったくないが、隣の列がすかすかになっているのだから、そちらへ回ればいいものを。そう思うや否や、家康は籠を抱えたまま歩き出し、ちまき担当となっている屈強な医療兵の傍へそれを下ろした。

「これよろしく」
「はっ、承知致しました」

一声かければ重低音な男の声が降って来て、残りのちまきを任せる旨を暗に伝えた家康は凪の列へ足を向ける。

「…あれ?光秀さんの家臣の方…!訓練参加されてたんですね」
「覚えていただいておりまして光栄です!自分は浅次郎(あさじろう)といいます。凪様もお疲れ様です」
「ありがとうございます!でもそんなに大した事はしてませんよ。ほら、ちまき渡してるだけですし」

先頭では八瀬の同期兼光秀の家臣である浅次郎が凪に声をかけられていた。厨番で彼が厨に居た時、茶を煎れに行った際に顔を合わせていた為、記憶に残っていたらしい彼女は目を瞬かせると笑顔を浮かべる。
浅次郎が名を名乗って挨拶を交わす中、それを少し後方で目にしていた八瀬は鼓動を跳ねさせた。
他の見知らぬ兵達よりも少しだけ長めの会話を交わす事が出来たのは、ひとえに浅次郎が光秀の御殿勤めの家臣だからに他ならない。
では、完全に顔と名前を認知されている自分ならば、凪はどのように声をかけてくれるのだろう。期待に胸を高鳴らせた八瀬が、浅次郎が列から抜けた事によって一歩進み出たその瞬間、すっと近付いて来た家康が彼の前へ立った。

「ちょっと、こっちの列に偏り過ぎ。あんたから後ろは隣に散って」
「えっ!!?」
「なに、文句でもあるの?」
「な、なにも……」

家康によって列を隣へ切り替えるよう、にべもなく告げられた八瀬は素っ頓狂な声を上げると目を白黒させる。しかし相手は光秀と同じ武将、口答えなど出来る筈もなく、家康の冷たい眼差しに容赦なく射抜かれ、八瀬は消え入りそうな声でただ一言、そう告げる他なかった。

その後方の兵たちも凪の隣の列────屈強な医療兵の方へ回され、一気に士気を萎れさせると諦めた様子で肩を落とし、移動し始める。

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