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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



一方その頃、同期三人組と共に並んでいた八瀬は、当然凪の列に並びながらそわそわと己の順番を待っていた。その様子はおそらく佐助辺りが目にすれば、推しアイドルの握手会の列に並ぶファンのような様だと例えて語りそうな程である。

同期三人が前、その後ろに八瀬といった並びになっていて少しずつ列が前進する度に八瀬の心はどきどきと早鐘を打っていた。摂津で一度護衛をしてからというもの、凪は御殿でも八瀬を見掛けた時には声をかけて来てくれる。
姫といった立場にありながら、気さくで明るく、別け隔てのない様子や、失態を犯した自分を責める事なく受け入れてくれた事に感激し、男は凪へ密かにそっと淡い想いを寄せていたのだ。
実は凪が顔と名を完璧に一致させているのが八瀬と九兵衛というだけで、ただ単に声がかけやすいというのが本当の理由なのだが、都合の良い八瀬の脳みそではそこまで思考が回らない。
という事で、男は厳しい訓練の合間、ほんの少しでいいから凪に癒やされたいといった下心もあり、彼女の列に並んでいるのだった。

「おい八瀬、そんなに気になるなら前譲ってやってもいいぞ」
「そうだな、俺も構わないけど?」
「い、いや…!お前達が先に並んでくれ。心の準備ってやつが…」

気を利かせた同期が自分の場所を指差して言い、その後ろに居た別の同期も同意するよう頷いてみせる。しかし八瀬は首を左右に振って丁重に友人達の言葉を辞退した。御殿以外でこうして顔を合わせるのは摂津を除けば初めての事だ。髪を高い位置で結った姿は愛らしく、笑顔で兵達にちまきを渡す姿はきらきらと輝いて眩しい────ように八瀬には見えている。
己の番が巡って来た時、果たして何と凪へ声をかけようか。心の中でそんな事を考えながら鼓動を速めた八瀬は、そっと微かな溜息を漏らしたのだった。

更に一方その頃、ちまきが詰められた新しい籠を天幕から運んで来た家康は、凪の列に固まった男達を目にし、ひくりと眉間に皺を刻んだ。視線を先頭の凪へ向ければ、せかせかと些か焦った様子で兵達にちまきを渡している姿が視界に入り、むっと眉根を寄せて幾分早足で歩き出す。

(珍しいのは分かるけど、そっちばっかりに集中したら、あの子がいつまで経っても休めないだろ)

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