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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



昼餉はちまき以外に、竹筒へ予め入れられていた焼き味噌に沸騰した湯を入れる、いわゆるインスタント味噌汁的なものも配られている。それについては一人ずつ竹筒に湯を入れて手渡す形となっており、その為に多くの水が必要だと察した彼女は当初、水汲み担当として名乗りを上げたのだが、それは焦燥した医療兵によって丁重に断られていた。
よってこうしてちまき担当となった訳だが、ちまき担当は実は凪だけではない。凪の隣に居る医療兵もちまき担当────なのだが。

(なんでこっちばっかり?お味噌汁に近いから!?そんなお味噌汁に飢えてる!?)

そんなに早く味噌汁が欲しいのか。凪の解釈は微塵も当たっていないのだが、彼女の右隣りがちまき、左隣りが味噌汁を配る列なので、そう思わざるを得なかった。
ちなみにちまきを先に貰わなければいけない、といった決まりはなく、先に味噌汁を貰った者がその足(駆け足)で凪の列に加わっているのも先程から幾度か目にしている。

(え?もうちょっとペース上げた方がいい?)

訓練を終えたら誰しも腹が減るもの。早く貰うものを貰って休みたいだろうと考えた凪は些か焦った様子でちまきを渡す手を速め始めた。

配給が始まると同時、脱兎のごとく駆け出した男達の中で最初の方に並んだ者達はいわゆる勝ち組で、噂の姫君から笑顔と激励付き(本人はそういった意図はまったくない)のちまきを貰い、悠々と味噌汁をいただいている。
凪が知る由などないがこの時代、姫と名の付く女性からこうして手ずから何かを頂けるというのは名誉な事なのだ。まして織田家ゆかりの秘姫となれば兵達からしてみれば雲の上のような存在にも等しく、それが若く愛らしい女性であるなら更に気分も高揚するというもの。秘姫など肩書きだけでしかないと思っている一般庶民の凪にしてみれば、些か大仰が過ぎると思える彼らの反応は、ここでは至極当然なのである。

(むさい野郎に貰うより、可愛い姫の手で渡されたちまきが食いたい!!)

後の理由はそういった本当にどうしようもなく短絡的なものだが、男達は真剣だ。
なにせ訓練兵は当然男ばかりだし、医療兵も諸々の理由で男ばかりだ。今まで演習場に女性が現れた事は一度もないし、それはもう気分だって上がるというものである。

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