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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



引き結ばれた唇と、硬く握られた拳を視界に捉えた家康が些か驚いた様子で眼を瞬かせた。

「怖くないです。多分、私が一番これを受け入れなきゃいけないと思うから」

その意味はおそらく、家康には理解出来ないだろう。
凪はこの乱世の、更にその先の世で生まれ育った。この時代とその後にやってくる時代、沢山の時代を積み重ねた先に、自分の生まれる世がある事を知っている凪が、今この瞬間を恐ろしいからと言って目を背ける事は、あってはならないと思ったのだ。

「……そう」

家康は言葉の意味を深く問いかけて来る事をしなかった。
彼女の目の中に、彼女自身の覚悟や決意を見たからかもしれない。女は弱いもの、煩わしいもの。過去の一件もあり、弱さを嫌う家康の思考を覆す凪の真っ直ぐな眸はどうしてか、とても美しく見えた。

「…よく見ておきなよ。あの人は必要と思えば急所を的確に撃ち抜くし、生かす為なら、わざと身動きを取れなくする場所を撃つ。でも、それが最善で、両者共に一番犠牲を少なくする方法だ。あんたが光秀さんと行動を共にするなら、そういう戦い方をする人だって、覚えておいた方がいい」
「…うん」

家康の言葉はすとん、と凪の中へ違和感なく落ちて来る。
そういう戦い方をする人、と言われて何故かその通りだと思ってしまったのだ。最善で、犠牲を少なくする為に自らの身を削る、その片鱗を確かに凪は目の当たりにした。
小さく頷いた凪の横顔を見つめ、家康は顔ごと視線を正面へ向ける。

「今主戦力になってる種子島は有効射程がだいたい一町(いっちょう)程度。もう少し近付ければ鎧も貫通出来るくらいの威力はある。その分、距離が遠くなればなる程、威力は激減する。まあ…あんたが実際に銃を構えるわけじゃないだろうけど、覚えておいて損はないよ」
「う、うん…!覚えておきます!(…一町って、つまり何メートル?)」

解説してくれている家康には申し訳ないが、この時代の単位など凪に分かる筈もない。

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