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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第16章 掃き溜めに鶴



微かな苛立ちにも似た衝動を押し込めた筈が、次の隊を促す声へその感情がほんのり滲んでしまったのは、まあ無理もない事だった。

「凪様…!」

先程撃ち終えた者達が銃の手入れをする為、横一列の並びで控えている兵達の一番後ろへ回り込んだ後、次の並びの者達が配置についたちょうどその時、凪の名を小さく動揺した様子で零す男の声が聞こえた。
今並んでいる者達が撃ち終えたその後に順番が回ってくる列の中に居る、よく見知った男は光秀の家臣である。ちなみにその男の隣に並んでいた九兵衛は何処か遠い目をして彼の事を眺めていたのだが、それはまた別の話だ。
光秀が横へ視線を流す形で八瀬を見やり、静かに問いかける。金色の眼からは感情の類いが窺えず、比較的(本心かそうでないかはさておき)笑みを浮かべている事も多い口元は、今は無表情の類いとなっている。

「八瀬(やせ)、どうした」
「えっ!?いや、何でもありません…!」

(…この馬鹿!よりによって光秀様の前で…!)
(馬鹿!)
(まあ八瀬だからなあ…)

慌てたように首を振った八瀬と主君のやり取りを見て九兵衛がそっと口元へ微かな苦笑を浮かべた。
前後に並んでいるのは光秀の御殿で共に仕えている家臣達兼八瀬の同期達であり、声にならない心の声で彼等は各々呆れを含ませた溜息を零す。

「……八瀬殿、あまり過剰に反応されない方がよろしいかと思いますよ」
「申し訳ありません…九兵衛様。でも、あの方がここに来られるとは思わず…」

光秀が銃を撃つ順番がやって来た兵達の構えの姿勢を直しに、その場から遠ざかったタイミングで九兵衛が控えた声色のまま八瀬へ声をかけた。光秀に限って不用意な当たり方はしないだろうが、それでも八瀬の身が色んな意味で心配になったらしい。申し訳無さそうに眉尻を下げた八瀬は九兵衛へ謝罪を漏らしつつ、ちらりと家康相手に何やら話しているらしい凪の姿を見やる。

「それは私も、光秀様も同感でしょう」

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