第15章 躓く石も縁の端
彼女の言葉を耳にし、光秀の眉間がほんの僅かに動いた。
正直、まったく手付かずの分野であるなら致し方ないが、そうでないなら自分を頼って欲しい、というのが男心というものだろう。三成も確かに優秀で、穏やかな気質であるから指南役としてはうってつけな人選だが、些か複雑な心地である。
「……三成の手を煩わせるまでもない。情勢なら俺が指南してやろう」
「え、光秀さん元々滅茶苦茶忙しいじゃないですか」
光秀の発言へ眉根を寄せた凪は、多忙だろうといった意味合いで難色を示した。暗に光秀にはあまり頼みたくない、といった雰囲気を出す凪を前に、男は敢えて悠然とした笑みを浮かべる。
「まあ確かに、俺の指南はそう生易しいものではない。その点、三成であればお前の可哀想なおつむに合った良い指南をするだろうな」
「な…っ、」
口角を持ち上げ、あからさまに小馬鹿にした様で双眸を眇めた男の発言に、凪の眉間がひくりと動いた。苛立ちを含む小さな声を耳にし、伸ばした人差し指でつん、と額を軽く小突く。
「なら仕方ない。お前は三成に優しく教えて貰うといい。俺の指南はお前のような軽いおつむには、少々荷が勝ちすぎる」
「……なんですかそれ。私が光秀さんの指南についていけないって言ってます?」
「言葉の意味を正しく理解出来ているとは感心だ。褒美に頭を撫でてやろう」
「要りません…!」
つん、つん、と数度額を小突かれた末に発せられた挑発は、確実に凪を煽っていた。深々と眉間の皺が刻まれていく中、幾分低められた声を発した凪がむっとした面持ちで光秀を軽く睨む。暗闇の中でも存在を主張する金色の眼が笑みを含んで瞬きする様を前に、彼女は額を小突く手を軽く押しやった。頭へ移動させようとして行き場をなくした手を下ろし、苛立ちを含ませた凪を前に囁きかける。
「随分不服そうな顔をしている。…それとも、ついて来られるとでも言うのか」
「ついて行きますよ…!これでも一応必要な事は覚えようと思えば覚えられるんですから…!情勢だってちゃんと覚えます」