第15章 躓く石も縁の端
取り敢えずこの燻る羞恥を有耶無耶にしたくて、強制的に話を切り上げると、光秀は微かな笑いを溢した後で柔らかな声色を発した────のだが。
(どうしよう、まだ何かどきどきして眠れない)
先程の余韻が残っているのか、凪の身体はほんのりと火照っており、眠ろうと瞼を閉ざすと何故かあの夢の内容が蘇って来る始末だ。こういう時に限っていつもは背を向ければあまり気にならない光秀の気配を意識してしまい、無性に恥ずかしい。挙げ句、先程から延々と背に視線まで感じるような自意識過剰ぶりである。
しかし、下手に身じろぎすれば意識がある事を気取られてしまうし、それでからかわれでもしたら目も当てられない状態になるに違いない。
懸命に瞼を閉ざして意識を眠りの淵へ沈めようとするも、やはり覚醒し切った思考はどうにもならないようだった。
(………光秀さんは寝てない、よね。多分)
嘘か真か、眠気がないと言っていたのだから、そうなのかも知れない。無意識の内に零れそうになった吐息を必死で我慢し、どうにか意識が切り替えられないものかと思考を回転させた。
そうして、ふと昨日家康と彼の御殿で話した内容を思い出し、凪は褥の中で双眸を瞬かせる。
家康と相談した凪の職については、光秀の許可が必要だと言っていた。ならば、いっそ眠れないのなら今話してはどうだろうか。
(でも…疲れてる中でそういう話するのもどうかと思うし…)
声をかけたら、根が優しい光秀の事だ。きっと耳を傾けてくれるだろうが、彼を休ませる為にあらゆる羞恥と戦った自分がそれを妨げるのはいかがなものか。
(……よし、そっと声かけて眠そうだったら止めよう)
ぐるぐると終わりのない思考に終止符を打つべく、凪は心の中でそう決めた後、軽く身じろいで光秀の方へそっと寝返りを打った。
「……光秀さん」
「おや、今日は寝付きが悪いな」