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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第15章 躓く石も縁の端



凪の予想では、光秀はおそらく寝ていない。
実際彼女は光秀が何をしに出掛けていったのか、そこまでの詳細は知らされていないが、いわゆる女の勘に加え、これまでの光秀を見ての判断というやつである。懸念と疑念が入り混じったような凪の眸を見やり、光秀はつい喉奥で低く笑いを溢した。

「出掛ける前にも言ったが、今回は然程遠出でもなかった。特に休まずとも問題ない、というのが俺の返答だ」

光秀の言葉は半分以上本心である。もっと過酷な長旅を強行軍で通す事もあれば、軽く三徹、四徹など当たり前の時期もあるくらいなのだ。それに比べて考えれば、最近は凪の傍で休める時間を持てるだけ、いっそ贅沢にすら思える。
さすがにそれを口にしてしまうと猛反論を受けてしまうので、心の中へそっと留めておいたが、自らをこうして案じてくれている凪の姿が愛おしくて、つい捻くれた意見が口をついて出た。

「そう答えるのは光秀さんくらいですよ…普通、夜番の人とか以外は疲れていようがいまいが、寝るものなんです」

幾分呆れを含ませた調子で肩を落とした凪は、いまだに襖の隙間から顔を覗かせた体勢で懸命に言い募る。
部屋の灯りはまだ半分程点いている事もあり、彼女の不服を感じさせる表情がはっきりと窺えた。

「ほう……?御高説感謝する。なにぶん初耳なものでな」
「どんな偏った常識の中で生きてるんですか…!」

意地悪く眇めた眼を注ぎ、口元へ刻んだ弧を深めて肩を竦めてみせると、凪はつい反射的に突っ込みを入れて更に眉根を顰める。やがて、そのまま部屋をするりと出て来た彼女は裸足のままでひたひたと畳を静かに踏み締め、光秀の元まで近付く───前に縁側に位置する行灯の灯りを吹き消した。

「部屋主の許可なく自ら部屋の灯りを落とすとは…暗がりで一体何をするつもりやら」
「へ、変な言い方しないでくださいよ…っ。寝なくていいとか訳わかんない事言う人へ実力行使に出ただけです」

部屋のほとんどの灯りを消し去り、後は光秀が居る文机の傍にある二つの行灯と燭台だけだ。凪が強制消灯した所為で部屋は一気に暗闇へ呑まれる。

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