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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第15章 躓く石も縁の端



溜息を紛れさせた調子のそれへ我に返り、ぴしりと紅い顔のまま固まった凪を他所に、光秀は飄々とした調子で凪の頭へ片手をぽんと乗せ、撫でながら声をかけた。

「もう、犬みたいに撫でないでください…っ」

別に犬のような感覚で撫でている訳ではないが、先程までの話題の所為でそう捉えられたのだろう。両手を伸ばして自身の頭を撫ぜる光秀の腕を退けようとした瞬間、何かを見咎めた男が手を退けられる前に彼女の片手をそっと捉えた。

「………これはどうした」
「あ、やば…っ」

僅かに低められた声色は真剣味を帯びている。光秀が指し示しているものの存在を察した凪が咄嗟に小さく溢し、その失言に気付いて捉えられていない片手で口元を覆った。
光秀が捉えた凪の左手首、そこには昼頃、家康によって巻き直された白い包帯がある。明らかな存在感を放つそれは、先日の転んだ一件で地味に捻ってしまったものだ。
説明を促す視線を間近で向けられ、おずおずと凪が口を開こうとした瞬間、家康が二人のやり取りへ割り入るよう声を発する。

「それについては俺から説明します。光秀さんの御殿へその子を迎えに行った後、俺の不配慮の所為で町人とぶつかり、転んだ時に捻ったようです」
「で、でもそれって私が勝手に…っ」

薬研を動かす手を止め、居住まいを正した家康が光秀に向けて静かに告げた。自分の所為だと言わんばかりの物言いに目を瞬かせ、焦った様子で凪が首を振る。

「あんたは黙ってて。補佐として面倒を見きれなかったのは俺の責任です。すみませんでした」

否定しようとした凪へはっきりと言い切り、光秀へ再び視線を戻した家康は、言い訳を一切並べる事なく頭を下げた。厳密に言えば不可抗力であり、家康に責任があるわけではない。それは光秀とて何となく話の断片から理解していたし、端から家康を責める意図は光秀には微塵もなかった。
捉えていた凪の手首を解放した後、瞼を伏せて緩く首を左右へ振った光秀は静かに否定を紡ぐ。

「…いや、お前が謝る事ではない。そもそもの原因はこの娘の不注意でもあるだろう。凪が世話をかけて、すまなかったな」
「いえ……」

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