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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第15章 躓く石も縁の端



「……っ、馬鹿にして…!」

静かに諭すような声で紡がれ、何故か図星を差されたような心地になった女は顔を赤く染めると、それまでの態度とは一変し、怒りの形相を浮かべた。羞恥と怒り、情けなさが一気に襲い来る感覚に唇を引き結び、立ち上がる。
そのまま挨拶もなく身を翻した彼女は足取りも荒いままで襖を開け、それをけたたましく閉め切った。遠ざかっていく気配を感じ、やり取りを静観していた光忠はやがてやれやれといった様子で肩を竦める。

「だからお傍へ寄らぬ方がいい、と忠告したというのに」

光秀は昔から特定の女を不必要に近付けない。
社交辞令や処世術としての対応以外で女の影を見た事などなかった。それは、大事なものを作らないようにする、といった光秀の根底から来る意識の所為でもある。だからこそ、どうにも気にかかった。

凪、と女が告げた時に見せた反応。
あれは彼女自身というよりも、その名そのものに反応していた。おそらく光秀が傍に置いているという、噂の姫君の名なのだろう。

「……光秀様、飲み直されますか?」
「いや、今宵はここまでとしておこう」
「左様で」

念の為にと確認すれば、案の定光秀からは控える旨が伝えられる。ゆるりと笑い、そのまま静かに相槌を打った光忠は湧き上がる興味を抑え込むよう、女が注いだ盃の酒をついでとばかりに呷ったのだった。


───────────…


視察を終えた後、九兵衛と家臣を御殿へ先に帰した光秀は騎乗したままで家康の御殿へと向かった。ちなみに光忠は留守居を任せている丹波へと戻る為、途中で分かれている。
昨日に続き午前中の内は小国の山々や地形を調べ、大まかな調査を終えた後で安土へと向かったが、その間にすっかり夕刻近くになってしまっていたらしい。
もう少し早く戻れると予定してたというのに、存外時間が掛かったと思いながら家康の御殿を尋ねれば、家臣が馬を預かり、女中によって御殿内へ招き入れられた。

どうやら昨日から寝る時間以外は家康の部屋にこもっているらしく、食事も家康の部屋で摂ったという事である。果たして何をしているやら、と考えたところで仕切り直しの宴の折、凪が家康に調薬の件を聞いていた事を思い出し、おそらくその関係で部屋にこもっているのだろうと見当をつけた。

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