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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第15章 躓く石も縁の端



素気ない態度を全面に押し出して天邪鬼な反応ばかりをしている自覚すらあるというのに、何故凪はそんな事を口にするのか。
心の中を読まれる事は気持ちが悪い、筈なのに、ただ湧き上がる苦い感情を呑み込む事しか出来なかった家康は、ますます不機嫌そうに眉間を顰め、凪を見やる。

「別に。薬効の話じゃないなら、興味ない」
「それは嘘ですよ」
「……は?」

言い切った矢先に否定が紡がれた。語気を強めた調子ではなく、可笑しそうに笑いを含ませた彼女の鈴のような声が鼓膜を震わせた。あまりにも自然に否定するものだから、つい短い音だけで反応を示せば、凪はごく自然に笑みを溢し特に何の意図もなく告げる。

「なにそれ知らない、興味あるって思い切り顔に書いてましたし」
「……!」

途端、家康の耳朶が薄っすら赤く染まった。見開いた眼には明らかな驚きと羞恥が燻っていた。ほんの何気ない一言で感情が揺らされた事に唇を引き結び、家康が顔を背ける。
視界の端には不思議そうな凪の面持ちが映っており、自分だけが意味も分からぬ下らない事で心の内を波立たせている事実が無性に腹立たしく思え、家康は身体ごと凪へ背を向けた。

「…いいから、湯が冷める前にさっさと洗いなよ。これ以上無駄な時間かけるようなら、俺が洗うから」
「え、それは困ります…!」

背を向けている家康から放たれた無愛想な言葉を耳にし、慌てて着物の裾を捲くった凪が、片足を桶の中へ入れる。その微かな布擦れの音と、湯の跳ねる控えめな水音がどうしてかあまりにも気恥ずかしく感じてしまった家康は、不可思議で忙しない心情を落ち着けようと吐息を溢したのだった。


────────────…


桶で足を洗い終えた凪の指の間へ軟膏を塗り、草履を履かない間は包帯などの補強も要らないだろうと判断された凪だったが、その後で地味に捻ってしまったらしい左手首の存在へ目敏く気付かれると、結局説教を食らいながら包帯を巻かれてしまう運びとなった。
軽く捻った程度で熱も持っていない事から、適度な固定だけで済んだが、明日には包帯が外れるといいなあと考えたのは、光秀に呆れられてしまうから、という理由に他ならない。

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