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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第15章 躓く石も縁の端



「っ……、」

ばっと掴んでいた手首を離した。それまでずっと凪の手の熱さだと思っていた手の中の熱は、彼女のそれを解放しても尚、消える事がない。

「馬鹿じゃないの…、そもそも夏間近なんだから、少し走ったら暑くなるに決まってるでしょ」
「……今日は曇ってるから、まだ過ごしやすいって言ってましたよ?」
「うるさい、無駄口叩くなら今度こそ本当に置いてくよ」

ほんのりと紅くなった耳朶は初夏の暑さの所為だけではない。
眉間に皺を深々と刻み、わざと顰めた面持ちのままで言い切った家康はそれでも、足を速めて凪との距離を引き離すような事は、一切しなかった。


─────────────…


当然の事かもしれないが、家康の御殿は光秀の御殿と造りが若干異なっており、家臣の姿は勿論の事、普通に女中も働いているようだった。
距離として考えれば安土城へ向かうのと同じ位の距離感にあった家康の御殿へ辿り着いたのは、合間の寄り道の関係もあり、およそ四半刻後辺りの事である。
一度自室へ引っ込んでしまった家康に代わり、穏やかな雰囲気の女中によって客間へ案内された凪は、そこへ届けられていた荷物を確認した。
新しい小袖や打ち掛け一式に襦袢、足袋など、着替えに加えてつげ櫛や、何故か金平糖が入った小さな巾着まであり、果たしてこれは一体誰が荷を詰めたのかと苦笑してしまったのは内緒の話である。

片隅に荷をまとめておき、その中へ巾着を仕舞い込んだ凪が念の為と履いていた足袋を脱げば、痛みを感じていた右足の親指と人差し指の間が赤くなって擦れている事に気付いた。

「あー…まあやっぱりね」

摂津の時程酷くはまったくないが、草履の鼻緒がすれればそれなりに痛い。おそらく一日御殿で過ごすと言っていたし、今日は外を歩く事はないだろうと踏んだ凪が一応軽く洗って乾かしておくか、などと考えた末にそっと廊下へ顔を覗かせ、通りがかった女中へ桶に湯を張ったものが欲しい旨を告げれば、彼女は程なくして頼んだものを持って来てくれた────何故か、家康と共に。

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