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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第15章 躓く石も縁の端



なりますよ、結構使い勝手いいと思います。そう言って笑った凪は手にした銅銭を行商人へ渡す。品物と交換をした行商人は凪の手へもう一つおまけだと言って少し大きめな無患子をころりと置き、愛想良く笑んだ。

「いいんですか?ありがとうございます…!」

(………呑気な笑顔)

笑いながら行商人と言葉を交わし合う凪を眺め、家康はそんな事を考える。傍で呑気に笑う彼女が毒将とまで呼ばれている男の頬を張ったなどと聞いた時には驚きもしたが、やはりそれ以外はただの、強いて言えば変わった趣味を持っただけの女だ。そう認識しているというのに、何故先程見透かされたような心地に一瞬なってしまったのか。

(たかが、たまたま同じものを見てた。そんな下らない理由で)

────家康様はご幼少の頃より、お辛い環境に御身を置かれていらっしゃった所為か、他人にも厳しく、御自分にも厳しい御方だ。あまり本心を語られる事も少ない。故に、何をお考えなのか、その御心の内をはかりかねる事がございますなあ。

いつであったか、家臣連中が自分の居ない間に話していた事を脳裏に過ぎらせた家康は、瞼を伏せてそれを意識の外側へと追い出した。自分の心など知られずとも良い。理解されなくても良い。成すべき事の為に必要な事をすれば、それだけで良いとずっと考えていたし、これからも変わるとは思わない。けれど、何故か衝動的に思ってしまったのだ。

(見透かされたような気になって、それが嬉しい、なんて。ある筈がない)

「すみません家康さん、急に立ち止まったりして。もしかして御殿まで急いでました?」
「……別に。このくらいなら寄り道の内にも入らないでしょ」

行商人と話を終えたらしい凪がおもむろに立ち上がる。つい流れで足を止めてしまった事を今更ながらに気付き、迷惑をかけただろうかと眉尻を下げた凪が心配そうに問いかけてくれば、家康はふいと顔ごと視線を外して身を翻した。
彼女へ背を向けたままで言い切った家康は淡々とした調子で言い切った後、おもむろに足を踏み出す。

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