• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第15章 躓く石も縁の端



前半の家康の嫌味はさらりと受け流し───というか、さして気にしていないらしく、凪の興味は家康の不得手な季節の方へと向けられた。

「……家康さん、もしかして暑いの嫌いですか?」
「暑いのも寒いのも嫌い。暑いと集中出来なくてまともに読書が進まなくなるし、今日くらいの方が俺は却ってちょうど良い」

窺うように問いかけると、何処と無くうんざりした様子で眉根を寄せた彼はあっさり同意を示した。確かに今日はここ数日の中で一番体感的な気温は低い気がする。日差しが雲で隠れている所為で時間が確認し難いが、その分太陽の熱もあまり届けられていない。暑さへ見るからに辟易している家康の横顔を見ると、本当に苦手なのだろう。光秀は割と暑かろうと涼しげな顔をしている為、家康の反応は何となく凪には新鮮だった。

「そうなんですね。私も暑過ぎるのはちょっと…って感じですけど、夏は嫌いじゃないですよ。夏野菜とか色々美味しいし」
「……食い気だけで乗り切れるようなものじゃないでしょ」

ただ食べ物が美味しいから、といった理由で夏が好きなのかと胡乱(うろん)な眼差しを受け、凪は焦ったように首を振る。これでもそれなりに女性としての恥じらいは持っているつもりなので、食い気が張っているという認識で収められるのはさすがに嫌というものだ。

「えっ、それだけじゃないですよ!他にもちゃんと理由ありますから…!」
「……ふうん?じゃあ何」
「薬草が色々生えます!」
「…………あっそ」

一応聞いてやるか、くらいの気持ちであったが、耳を傾けた事を即座に後悔した家康は、これが最たる理由であると言わんばかりに言い切った凪をちらりと横目で一瞥し、すたすたと歩みを速める。あまりにも素っ気ない反応を前に、むっと軽く眉根を寄せた凪はそのまま離れようとする家康へ必死について行った。

「もう、何でそんな反応冷たいんですか…!家康さんなら絶対共感してくれるかなって思ったのに」
「それとこれとは別」
「えー…残念です」

心底残念そうな声色を漏らした凪を尻目に、家康は次第に増えて来た人混みを見やる。

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp