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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第15章 躓く石も縁の端



戯れていた雰囲気から、話を切り替えた事でそろそろ光秀が出発するのだと察した凪は、せっかく起きているのだからと光秀を見送る為に褥から出ようとした。
長い睫毛をふわりと伏せ、緩く首を振った彼を不思議そうに見やると、金色の瞳を覗かせた男は笑みを消し去り、些か憮然とした面持ちを浮かべた。

「…そんな無防備な格好で男の前に出るな。見送りなら、ここで十分だ」
「え……は、はい…」

ほとんど押し切られる形で言われた事もあり、光秀も男だが、といった突っ込みは咄嗟に出て来る事はない。虚を衝かれた様子で小さく頷けば、男は再び優しく頭を撫ぜて立ち上がった。

「では、そろそろ行くとしよう。門前で九兵衛をいつまでも待たせる訳にはいかない」
「九兵衛さん待ってるんですか!?それを早く言ってくださいよ…!……あの、気をつけて行って来てくださいね」

よもや延々と九兵衛が待っているとは知らず、凪は焦燥と申し訳無さで眉尻を下げる。まあ実際にはまだ出発刻限より少し余裕があるので、待ちぼうけを食らっているわけではないだろうが。文句を言いながらも、やがて幾分控えた調子で視線を送りつつ彼女が発した身を案じる言葉を耳にし、光秀は双眸を瞬かせる。凪は褥へ座ったままである為、立ち上がった光秀と視線を合わせる為には、見上げる他ない。
黒々とした眼が自らへ真っ直ぐに視線を送って来る様を見返して、やがて光秀は口元へ強気な微笑を乗せた。

「ああ、心得よう」
「行ってらっしゃい、光秀さん」

光秀の表情を前に、不安を吹き飛ばした凪が笑顔を向けて来た。障子越しに伝えられる日の薄い光を受けつつ綻んだ彼女の表情を前に、光秀はそっと眩しそうな様子で双眸を眇める。
袴の裾を捌いて身を翻せば、ばさりと微かな布擦れの音が朝の室内へ響いた。真白なそれを揺らしながら片手を襖にかけ、一度立ち止まって顔だけで振り返った光秀は思い出した様子で凪を見やる。

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