• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



いそいそと手に引っ掛けていた巾着から銅銭を取り出そうとする凪の姿を視界に捉え、光秀はそっと瞼を伏せたまま口元を綻ばせると長居し店先を占領してしまった分の金額を上乗せし、店奥から品物を包み終えて戻った店主へ勘定を渡す。
驚く店主の物言いたげな視線を受けた光秀は、初めて扱う銅銭へ些か四苦八苦している凪へ気付かれぬよう、薄っすら笑みを浮かべたまま、控えめに人差し指を自らの口元へあてがったのだった。


──────────…


────凪と光秀が湯呑み茶碗攻防戦を繰り広げていた頃。

人混みの中を優雅な足取りで歩く男の姿を、町娘達が色のこもった視線で追っていた。ただ往来を歩いているだけだというのに、主に女性の視線を無意識下で集めてしまうその男は、手にした扇子を広げてふわりと優雅に自らへ風を送る。
肌を撫ぜる風は季節柄、決して涼しいものではなかったが、微風に揺れる墨色の髪の動きが加わるだけで、けぶるような色気が発せられる為、いっそう女性らの視線は釘付けになった。
雰囲気からして儚げ且つ浮世離れした彼へ幾つも感嘆の息が密やかに落とされる中で、やがて人混みの中に紛れる見知った姿を見つけた男───今川義元は、再びふわりと扇子を扇ぎ、その相手へ声をかける。

「ごめんね、佐助。もしかして俺の事、探してくれてたのかな?」

義元が声をかけた相手───猿飛佐助は背後からかけられた穏やかな調子のそれへ振り返り、安堵の息を漏らした。

「義元さん…急に居なくなったからさすがに驚きました。けど何事もなかったようで良かったです」
「ちょっと興味を惹かれるものがあったから、つい足が自然と向いちゃってね」

悪びれた様子もなく柔らかな調子で言い切る義元に対して、佐助は無表情と言われがちな面持ちへ、近しいものしか読み取れないだろう、仄かな苦笑の色を灯す。
義元が町中でふらりと姿を消すのは今に始まった事ではなく、時折付き添いとして訪れた際にはよくある事だった。故に想定していなかったわけではないが、さすがにここは敵国の安土であり、一応彼は死んだというていで身を潜めている身だ。万が一織田軍の武将達へ見咎められては困る。…まあ実は、その佐助の懸念に関しては既に手遅れなのだが。

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp