第14章 紫電一閃
「これは止めておけ。些かお前の手には余る」
「そうですか?ちょうどいい大きさかなって思ったんですけど」
白藍色───中川清秀の髪色を連想させる湯呑みを棚へ戻し、さり気なく奥へやった光秀を見上げ、両手で白花色の湯呑みを持ち直した凪が不思議そうに首を傾げた。
「そそっかしいお前が割っても落ち込まないというなら、俺は別に構わないが」
「……そんなそそっかしくないですよ。………多分」
敢えて挑発するような物言いとなった光秀が、意地悪く笑む姿を見つめつつ、凪がむっとして眉を寄せる。しかしきっぱりと言い切らないところを見ると、何処かしらに不安は残るのだろう。
若い二人のやり取りは老齢な店主から見て大層微笑ましいものに映っていた。にこにこと笑った彼は一度店の奥へ引っ込み、在庫の中からあるものを手にすると、再び店先へ顔を出す。
「それでしたら、こちらなどいかがでございましょう?」
「…あ、それって」
店主が両手で差し出したものを凪が受け取った。奥から持って来たのは、ちょうど凪が光秀用にと選んだ白花色の湯呑みと同じ作者のもので、色合いや形がほとんど同じものである。揃い、といってもおかしくないもう一つの白花色の湯呑みはしかし、店先にあったものよりも一回り程小さく、彼女の手にもしっくりと来た。
「その大きさならば、お連れ様の御手にもちょうどよろしいかと」
「確かに持ちやすいです。でも、これだとお揃いっぽくなっちゃいますけど…光秀さんは嫌じゃないんですか?」
店主の渡してくれた湯呑みはサイズ感もちょうど良く、元々色合いも気に入っている。光秀のように似合うかと言われればどうかは分からないが、シンプルな様は凪としても好むところだ。しかし、夫婦用と言っても遜色ないような二つの湯呑みは、いわゆるお揃いっぽい。光秀へ窺うような視線を送ると、彼は気にした素振りなど見せず、彼女の手にある品を見る。
「俺は別に構わない」
「じゃあ、これがいいです」