第14章 紫電一閃
「気付いていて、許容していたものと思っていたが」
「許容も何も、光秀さんが急に後ろから引き寄せて来たんじゃないですか」
僅かに眉根を寄せた凪を見下ろし、そうだったな、と短く笑った光秀はようやく彼女の傍から幾分身を離して視線を陳列棚へ投げた。義元の突然過ぎる乱入ですっかり中断されていた品物選び───というより、白花色か白藍色、どちらの湯呑み茶碗にするのかの選択を再開した凪は思い切った様子でおもむろに手を伸ばし、手前にある白花色のシンプルなものを手にする。
「これにします。やっぱり光秀さんといえば白ですよね」
白藍色も大変捨てがたいが、ここはひとつ凪の抱いているイメージに沿ったものを選ぶ事にしたらしい。少しいびつな形成は、却って深い味わいを感じさせる。焼き物に詳しくない凪でも何となくそれが伝わって来たらしく、両手に持った湯呑み茶碗を満足げに見つめた。
加えて、焼き物に詳しいらしい気配を持っていた義元も褒めていた事だし、ブランドだからといって何でも品が良いとは限らない持論のある彼女は、光秀のまとう白袴と着物、そして陽の光を受けてきらきらと輝く銀糸を彷彿とさせるそちらを手にしたのである。
「……本当に割った湯呑みの代わりを買いに来たのか、お前は」
光秀に合う、と言って選んだ事から予想した通り、先日割ったものの代わりを買う為に訪れたといった線は確定された。
予測出来ていたとはいえ、実際にそうして選ばれると仄かな驚きが湧き上がり、まじまじと光秀が凪の横顔を見つめる。自分の為、自分に合う。そう実際に音に出して選ばれると、何とも言い難いむず痒さが湧き上がった。
初めて貰った報酬で、凪が買うと決めたものが自らの為のものだという事実は、言いようのない感情を湧き立たせる。
(お前が自分の力で得たものだ。俺の為などではなく、自らの為に使う事を考えればいいものを)
家臣や大名などより捧げられる献上品とは意味が異なる、純粋な好意からのそれを真っ直ぐに向けられた事など、ほとんど無いに等しい。何かを贈る裏には、必ず人の打算や欲望が見え隠れするものだ。少なくとも、光秀はそういったやり取りの世界の中に身を投じている。